煮干しの一押しVOCALOID曲

VOCALOIDの話題や気になった事を書こうと思います

時の流れに揺蕩う曲を紡ぐVOCALOID曲

 

こんにちは こんばんは 煮干しです

 

 いよいよ師走の中頃を過ぎ、今年もわずかになりましたね。今年の気象は、やはり異常で師走になっても寒暖を繰り返し、この陽気に困惑し体調を崩す人も多くなりそうな予感がする一方、道端に目をやれば、野草たちは、めげずにむくむくと成長していて驚くばかりです。このまま異常気象が進み、いっそう激しさを増せば、淘汰されるのは人の方だと確信めいたものを感じながら世界に目を向けると、温暖化による環境変動が現実味を帯びて、この手の国際会議が本格的になり、いよいよ国際的な強制力が働きそうな感じは、もう手をこまねいている時は終わったのだと感じます。因みに、ドバイで行われたCOP28は、エジプトで去年開催され締結されたシャルム・エル・シェイク実行計画基金に損害と損失を入れる事が締結され、これによって途上国でおける異常気象の常態化による損失と損害を補償する事が決まりました。シャルム・エル・シェイク実行計画の中身を見ると分かりますが、マジでヤバいんだなと感じてしまい、背筋にぞくっと来ますぞ。

COP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)の結果概要について - トピックス - 脱炭素ポータル|環境省

 

 今回の品書きです

 

 

 

煮干しがお送りするちょっとした物語

 

 

まず始めに、この物語はフィクションです。物語の中に登場する個人名、団体名、会社名は架空の物であり実在する個人、団体、会社とは関係ありません。

 

※題名や挿絵にBing Image Creatorを使用しました

 

 曲の紹介は下の方にあります!物語を飛ばしても構いません。

 

 

 新緑の真新しい緑が映える頃、古くなったガラス温室でカーネーションの収穫と出荷に精をを出す、作業ツナギを着ている二人の男がいた。一人は初老でボサボサの白髪頭の男と今どきの若者で茶髪交じりの学生風。初老の男は谷村勇(たにむら・いさむ)という者でど田舎大学に籍を置く農学者、若者の方は田中悟(たなか・さとる)という者で谷村の助手をしている。谷村はマツタケの人工栽培を確立するために人生の大半を研究に明け暮れたが、未だに成果が出ず、学内では彼をマツタケ先生と揶揄していた。マツタケの研究者の彼が何故カーネーションの収穫をしているのか?、それは、遡る事、数年前・・・学会でマツタケの発芽によるタヌキのフミフミ論を提唱して、学界から総スカンされた訳だが、その事を大学側が問題視して、学部会議に取り沙汰され、予算が3分の1にされてしまい、足りない分は自力で補う他なかったのだ。そして、谷村は大学の許可をとり、使われなくて久しい古いガラス温室を借りて、カーネーションを売り研究資金を確保する算段をした。

 

 ようやく、カーネーションの全ての収穫が終わり谷村は深いため息を付き、「田中!、こっちは終わったぞ!」と後ろにいる助手である田中に言った。田中は谷村が収穫したカーネーションを既定の重さにして、専用の空気穴が開いているセロファンを巻いて束ね結束し、出荷用の段ボールに入れ、新聞紙を被せて段ボールを閉じ、「こちらも、終わりです」と言う。二人は収穫し、調整して出荷用の段ボールに詰めたカーネーションを集荷まで保存する保冷庫に積み込み終わると、適当なところに腰を下ろし休憩に入った。慣れない作業の疲労により二人はうつむき加減でいたが、流石に20代の若さを持つ田中は顔をあげて、「先生・・・、何でカーネーション何ですか?、こんな極端な繁忙期がある農産物よりバラみたいなエレガントで少しづづ出荷する方が楽で良くないですか?」と尋ねた。谷村はゆっくりと顔をあげて、眉間にしわを寄せ、「アホか、バラが開花するには数年かかる・・、私たちはすぐにでも資金を確保しないといけないのに咲く頃には、大学に居場所が無くなっているわ!」と怒鳴った。田中はしかめっ面で、「そんなに怒らなくていいじゃないですか、ちょっと聞いてみただけなのに・・」と恨み言を言う。しかし、谷村は更に口を開き、「良いか?、私たちは短期間で研究資金を確保しなくてはいけない、物日があって比較的に早く売り物になるカーネーションがベストなんだ」とクドクドと説教じみた言い方をした。田中は谷村の話しに聞き慣れない言葉に疑問を感じ、「先生・・物日って?」と遠慮しがちで尋ねる。田中の疑問に谷村は今日一番のため息を付き、「前な・・本当に農学部を卒業したのか?」と苦言を呈した。田中は即座に口を開き、「現に卒業しましたよ!、教えてくださいよ!、ケチ!」と反撃。谷村は鳩が豆鉄砲を食ったような顔して、「け、ケチ?」と呟くように言い、眉間のしわが更に増えて激高したが一瞬で収まり、ヤレヤレとばかりに口を開き、「まあいい、いつもの事だ・・、良いか?、物日というのは宗教的な習慣、或いは文化的な風習で必要とされて確実に需要がある農産物に対して物日があると言いうんだ」と言った。田中はその説明に掌(てのひら)に握った拳を付けて鳴らし、「ああ、なるほど!それが物日ですか!」と納得をした様子。谷村の説明は続き、「他の物日がある生産物は、正月飾りの松と蜜柑、日本ではあまり馴染みが無いがクリスマスツリーで使われるモミの木、お彼岸やお盆で使われる仏花などがそうだな」と付け加えた。田中は偉く関心をした顔をし、「なるほど!、物日がある農産物だったら確実に売れますものね!、流石!先生!アタマ良い!」と絶賛。谷村は苦虫を嚙み潰したよな顔して、「私・・これでも農学者なんだけど・・」と呟いた。

 

 谷村は目の前の舐めくさった若者をぶちのめしたい気持ちはあったがそれをやると本当に大学を去らなければいけないので気を取り直し、「物日が無いバラは小売店の花屋さんとしても、いつ来るか分からないお客のために在庫を抱えたくないんだ、だから私たちが大量にバラを生産しても市場は歓迎してくれないのだ」と説明を締めくくる。田中は笑顔で満足顔になり、「はえー、じゃあ、カーネーションは正解っすね!」と賛辞。谷村は田中に対してちょっとだけ芽生えた殺意を飲み込み、「うん・・ありがとう」と礼を述べた。谷村はストレスの緩和するため懐から煙草を出し、それを咥えて、火を点けると青空をみながら、「まあ、花き(かき、いわゆる花を商品とした農産物全般)産業の未来は少し暗いな・・」と黄昏ながら言う。田中は眉をひそめて、「何でです?」と尋ねる。すると谷村は煙草を人差し指と中指の間に納めて、「コロナ禍を覚えているか?」と言った。「コロナ禍?、ええ覚えてますよ!」と田中は自信たっぷりに返す。谷村は再び煙草をふかし、「あの自粛期間で、文化的あるいは宗教的な習慣が一時的に無くなった・・つまりどういう意味か分かるか?」と田中に問う。田中は少し考える様な仕草をし、あっという顔をして、「物日がある生産物に需要がなくなる・・・」と答えた。谷村は田中を指差し、「正解!、花き産業は物日に頼るビジネスモデルなんだが、その物日の需要の源泉である文化的或いは宗教的な習慣が無くなるという事は大打撃を受ける事になる訳だ」と言う。田中は首をかしげ、「でも・・コロナ禍が終わり通常に戻りましたよ?」と谷村に疑問を投げた。谷村は自分の吐き出した宙を舞う煙草の煙を眺めながら、「確かに戻った・・・、だが物日に頼ったビジネスモデルの脆弱性がコロナで露呈し、この先の少子高齢化によって先細りする未来が確かなものとなったのだ、物日の消費者は圧倒的に高齢者が占めていてるからな・・」と寂しそうな眼をする。田中はすかさず、「若者だって消費しますよ!」と反論。谷村はヤレヤレとばかりに首を振り、「じゃあ聞くが、お前は一番新しい記憶で花屋に行ったのはいつだ?」と田中に尋ねた。田中は困惑してながらも、「えっ・・と、高校の頃、母の日のプレゼントのためにカーネーションを買いに行った時です・・」と恥ずかしそうに答える。谷村は田中の答えに特に表情を変えず、「まあ、別に恥じる事は無い、お前は特殊でもなく普通の若者だよ、一般的な若者たちは皆そうだ、家が華道家の様な特殊な環境じゃなければ花屋に足を向けないだろう」と肩をポンとたたき、口を再び開き、「だから花き産業は少子高齢化で斜陽に差し掛かっている・・現在の圧倒的な物日に頼るビジネスモデルを刷新する必要が迫れているのだ」と言った。谷村の言った事に対して戦慄をした田中は、「じゃあ・・どうすれば?、この先・・花き産業はどうすれば良いですか?」と谷村に答えを求める。谷村は煙草を携帯灰皿に入れ、「それは・・」と言い。田中は、「それは?」とオウム返して、ごくりと唾を飲み込み谷村の言葉を待つ。谷村はゆっくりと口を開け、「私が分かる訳なかろうw」とおちゃらけながら言った。田中は盛大にずっこけて、「ちょっ!、先生!、これだけ引っ張ってそれは無いですよ!」と抗議。谷村は眉間にしわを寄せ、「やかましいわ!、花き産業よりまずは我々の研究資金の確保が先じゃ!」と居直った。

 

 谷村の居直りに呆れながらも田中は、「じゃあ、今回のカーネーションの販売でどのくらいの売り上げになるんですか?」と尋ねた。谷村は顎をさすりながら、「ふうむ・・正味、30万と言ったところか」と答えた。田中はすかさず、「30万位で足りるんですか?」と再び尋ねる。谷村は苦笑をして、「全然」と返した。谷村の返答に田中は驚き、「えっ・・じゃあ・・この先はどうするんですか?」と恐る恐る問い詰めた。谷村はニンマリと笑い、「安心せい!、実はもう手は打っていて、300万程の資金を確保済みだ!」と言う。田中は青ざめ、「えっ!?・・300万?、もしかして・・・!、駅前のトレーディングカードショップに強盗の被害がありましたが確か・・被害額が300万!、先生の仕業ですか?」と動揺する。谷村はすかさず、「貴様!、私の事を普段どう見てるんだ?、そんな訳ないだろう!」と否定をして激高。田中は含み笑いを浮かべ、「いや、先生ならやりかねないかなってw」とあっけらかんと返す。谷村はこめかみに血管を浮き出しながら、「やかましい!、このZ世代!、しまいには、いてまうぞ!」と興奮のあまり出生地である関西弁なまりが思わず出てしまう。田中は流石に度が過ぎたと思い、「ごめんなさい、悪ふざけが過ぎました!、申し訳ありません」と真摯な態度で謝罪。田中の謝罪の姿勢に谷村は、「はあはあ、まあ・・いいだろう・・」と息を切らせながら謝罪を受け入れた。田中は実際のところ、300万という大金の出所が気になっており、「先生、300万はどうやって手に入れたんですか?」と改めて尋ねる。谷村は得意げな顔をし、「まあ、私も最近の流れを取り入れ、クラウドカンパで資金提供を呼び掛けたんだ」と腕を組む。田中は老人の口からその最近のトレンドワードが出て驚き、「クラウドカンパ?、えっ・・じゃあ、ネットで募集をしたんですか?」と言う。谷村はニコリと笑い、「年よりと思ってバカにするなw、私だってこれぐらいの知識と行動力をもっているわw」と言い高笑いをした。田中は感心したような仕草をして、「凄いです!、じゃあ返礼品はもう考えているんですか?」と尋ねる。谷村は自信たっぷりに、「モチのロンじゃあw、国産トリュフを送ろうと思っておる」と言った。その瞬間、田中はすっと背筋を伸ばし、スタスタと早歩きをして、何処かへ向かう。谷村は慌てて田中が向かっている進路に先回りをして立ちふさがり、「急に何だ?、イヤイヤ期がまだ終わってないのか?」と言う。田中は立ち止まり優しい目で谷村を見つめ、「これから役場の福祉課に言って行きます」と言い放ち、谷村は目を見開き、「な、何故、福祉課?」と聞き返す。田中は谷村の両肩を掴み、「大丈夫ですよ、経済的な負担がない特養の老人ホームの枠を必ず取ってきますので」と言う。谷村は田中の手を振り払い、「ボケてないから!、トリュフはこの国にもあるんだよ!、品種が違うがの!」と誤解を解こうと熱弁。田中はホッとした表情をし、「なんだw、そうならそうと言ってくださいよw、年が年だからついに来たのか思ってしまいましたw」と勘違いだと理解をした。谷村はため息を付き、「全く・・セイヨウショウロの一種であるイボセイヨウショウロというれっきとしたトリュフがこの国でも取れるんだ」と言う。田中は目をキラキラさせながら、「何処で獲れるんですか?」と尋ねた。谷村は田中の勢いに弱冠押されながらも、「何処って、その辺の雑木林にあるぞ、ただ、殆どの人は知らないから意識してないので見過ごしているがの」と答える。田中は目をくわっと見開き、「よしっ!、早速取りに行きましょう!」と視線の先にある農具小屋に向かおうとした。谷村はすかさず田中の手を掴み引き留め、「まてまて、今行っても小さいものが見つかるだけだ、今年の秋に取りに行く予定なんだ」と今後の予定を告げた。田中はしょんぼりして、「なーんだ・・つまらないの、秋までお預けか・・」と呟く。谷村は呆れ顔で、「つまらないって・・仕事だよ?」と言った。

 

 夏が終わり秋が深まりつつある頃、カーネーションの売上金とクラウドカンパの協力金によって、何とかマツタケの人工栽培の研究は続けられた谷村とその助手である田中は、いつものフィールドワークをする山の地主である長門家の屋敷に訪問をしていた。長門家は庄屋の流れをくむ家柄で、土壁の塀に立派な門構えがある、ちょっとした歴史的建造物であった。谷村は大きな紙袋を手にして助手と田中と共に、屋敷の門を潜ると庭にある松を老人が手入れしている。彼こそが長門家、現当主、長門平治(ながと・へいじ)である。谷村は早速大きな声で、「こんにちは!、長門さん、その節はどうも、谷村です」と声を掛けた。長門老人は作業を止めてゆっくりと振りむき、「ああ、どうも先生、何の様で来なすった?」と返す。谷村は手にしてい紙袋を差し出し、「その節はお世話になりました、これはつまらないものですがお納めください」と丁重に礼をを述べ、田中も続いて「ありがとうございました!」とペコリと頭を下げた。谷村と田中がここまで礼をするのは、ただ単に研究のためのフィールドワークをさせて貰っているだけではない。遡る事、数年前。谷村たちがフィールドワーク中に遭難した。何とか事なきを得て助かったのだが、それは長門老人の息子で谷村の教え子長門平九郎(ながと・へいくろ)を中心とした消防団に助けられたからだ。長門老人は目を見開きゆっくりとした動作で紙袋を受け取り、「こりゃあ、ご丁寧にご大層なものをありがとうございます、お茶を飲んでいきなされ」と縁側を指さし谷村たちを促す。谷村たちは縁側に座り、続いて長門老人が座ると、「おーい!」と屋敷の中に声を掛けた。すかさず、「はーい」と若い女性の声が返って来て、若い女性が屋敷の奥から姿を現す。若い女性は田中と年は同じぐらいで、由緒ある家柄の娘という感じの清楚な雰囲気がある黒髪ロングの大和なでしこだった。田中はその麗しい彼女の姿を見て背筋をピンとさせ、庭を眺めて澄ました顔をする。その様子に谷村は、「ぷっ」と笑い、田中はジロリと睨み、そんな二人のやり取りを気にせず女性は、「こんにちは!」と挨拶。谷村と田中は少し焦って軽く会釈をした。そして、「なーに、お爺ちゃん」と女性が長門老人に尋ねる。長門老人は微笑みながら、「済まないが、お茶を持って来てくれないか」と頼んだ。女性は、「うん、分かったわ!」と言い、「少々お待ちください」と立ち去る。長門老人が谷村と田中を見て、「あれは孫の平璃(ひらり)ですじゃ、大学を卒業をしてから帰って来てこちらで就職をしたんじゃ」と微笑む。谷村はすかさず、「ああ!あんな大きくなりましたか!、昔、小さい頃にお見掛けしましたが、立派になられましたな」と言う。孫を誉められた長門老人は上機嫌の様子で、「時が経つのは早いものです、庭を駆けずり回っていたのが昨日の様に感じるのう・・」と言った。庭を眺めながら世間話に花を咲かした三人に、平璃がお茶を持って来て配り、それを各々口を付け一飲みし、谷村は本題を切り出す。「実はですね、少々ぶしつけながら、お願いがあるのですが」と言う。長門老人はお茶を飲みながら、「ほう・・お願いとは?」と落ち着いた様子。谷村は手にした茶碗を縁側の板張りに置き、「長門家の裏山に雑木林がありますよね?、そこで松露(しょうろ)を取らせて頂けないだろうか?」とお願いをする。その刹那、田中が割って入り、「先生、トリュフでは?」と言う。谷村は振り返り、「分かっておる!、トリュフの和名を松露と言うんだ」と田中の疑問に答えた。長門老人は首を傾げた後、思い出したような仕草をし、「ああ、あの黒いキノコの事ですかな?」と谷村に確認。谷村は頷き、「そうです、松露・・いや、トリュフを取らせて頂きたい」と返す。長門老人はお茶を再び飲み、「なるほど、松露とトリュフは同一のものでしたか、勉強になりましたよ先生、いいでしょう、どうぞお好きなだけお取りください」と了承をした。谷村は喜び、「ありがとうございます、この礼は必ずお返しします」と感謝の意を伝える。長門老人は微笑み、「礼ならいいです、それよりも雑木林がある所には獣道を通って行くしかないでの・・そうじゃ!、平璃、茶次郎を呼んでおくれ」と興味が無いのか明日の方向を見てボーとしていた平璃に言い、「えっ!?、茶次郎?、いいわよ、茶次郎!!」と平璃は庭に向かって呼びかけた。すると、どこにいたのか茶色の毛玉が庭からこちらへ、トコトコと小走りでこちらへ向かう。縁側に着くと茶次郎はまず後ろ足だけで立ち上がり前足を田中の膝につけて、「うにゃあ」と挨拶。田中は笑顔で、「茶次郎!、久しぶりw、元気にしていたか?」と茶次郎の頭を撫でた。茶次郎は谷村を一瞥してから体を谷村の脛にこすり付け、縁側にジャンプして着地をする。平璃は茶次郎の頭を両手で包み自身の方へ向かせ、「茶次郎、いい?、この二人を雑木林まで案内をして」と命令。その様子を見た田中は、「えっw、猫が人の言葉を理解出来るんですか?」と笑う。平璃は得意満面に、「ふふんw、うちの茶次郎は人の言葉の8割ぐらいは理解をしているのよ!」と田中にドヤ顔。田中は冗談で言ったつもりが肯定され、「えっ?、そうなんだ・・」と少し引いた様子。二人のやり取りを他所に茶次郎は、「ぐるるにゃあ!」とまるで了解したと言わんばかりの鳴き声を発したのだった。

 

 谷村と田中は長門老人と平璃に礼を言い、困惑しながらも車に置いてあったリックサックを背負い茶次郎の後に続いた。尻尾をぴんと立たせて先導し、時折振り向いては谷村と田中を確認するこの茶色い毛玉に谷村と田中は半信半疑な目で見る。田中は囁き声で、「先生、これ大丈夫なんですか?」と谷村に不安そうに聞く。谷村は少し悩みながらも、「仕方がないだろう・・あの場で断る事がお前は出来るのか?」と返す。田中は苦笑いをし、「いえ・・出来ません」と言った。一匹と二人はその後、真新しい落ち葉を踏みしめ、30分位ほど獣道を進むと無事に雑木林に着き、谷村と田中は呆気にとられる。「本当に着いたな・・」と谷村は呟き、「ですね・・」と田中が同意した。不思議な事もあるものだと二人は思ったが気を取り直しトリュフ探しをする事にする。雑木林の中で二人は屈むと、谷村は懐から紙を出し、「いいか?、助手君、これがトリュフだ」と国産トリュフの画像がプリントされた紙を田中に差し出す。田中は受け取りその紙を見て「これがトリュフですか・・」と言いかけた瞬間、茶次郎がぬっと顔を突っ込んで紙を覗き込んだ。茶次郎はジーと見つめると、辺りを嗅ぎまわる仕草をし始め、「茶次郎!、お前・・もしかしてトリュフキャットか?」と田中は茶次郎に注目。「ここまでの経緯を考えるともしかしたらそうかもしれん・・」と谷村も茶次郎を見守る。この茶次郎と言う猫、二人は知る由も無いが長門家の森については主よりも、よく知っていた。茶次郎は、主がマツタケの収穫に夢中になっている時に、あの黒いものを暇つぶしでよく掘り起こして玩具にして遊んでいたのだ。茶次郎はピタリと止まり、谷村と田中の方を見て、「うにゃにゃ!」と鳴く。谷村と田中は互いに見つめ合った後、駆け寄り、茶次郎の元へ辿り着くと、「よし!、田中、慎重に掃う様に掘れ」と谷村は指示。田中は屈み、「了解!」と意気揚々と行動に移した。田中は慎重に落ち葉を退かして、その下の腐葉土を掃うと、黒いイボイボの塊が姿を現す。田中は驚き、「先生!、これってトリュフですよね?」と確認。谷村は屈みじっと観察し、「うむ!、間違いない!」と太鼓判を押した。谷村のゴーサインを受け、田中は慎重にイボイボの塊を人差し指で触れる。すると、「うわっ!?」と尻もちをつき後ずさり。田中の挙動に谷村は驚き、「どうした?」と尋ねる。田中は口をパクパクさせ「な、な、なんか固い皮に包まれた水風船の様な」と辛うじて答えた。谷村は腐っているのかと直感し今度は自身の手で確かめる事にする。谷村は黒いイボイボに手を触れようとした時、パッチリと黒いつぶらな瞳が腐葉土の隙間から見えた。谷村はため息を付き、「トリュフじゃないぞ・・イボカエルだ」とがっかりした様子。そして、そのやり取りを眺めていた茶次郎が、二人が求めているモノとは違うと確信し、失態を犯した事を自覚。羞恥心が心をいっぱいに満されると、ジロリとイボガエルを睨み、不快な気持ちになる原因を取り除くべく茶次郎は行動に出る。茶次郎は砂掛けの要領で後ろ足で蹴り飛ばすと、真新しい落ち葉と腐葉土と共にイボガエルは宙に舞い、失速し、きりもみ状態で「ゲコッ」と恨めしい鳴き声を残し雑木林に消えていった。猫と言う生き物はプライドが高い、己の失態を即座に無かった事にして体裁を保つ・・そんな生き物なのだ。谷村はイボガエルが蹴り飛ばされた方を一瞥してから茶次郎を見て、「な、何だこの猫、しくじりの証拠隠滅をしおった」と呆れるのだった。茶次郎は誤魔化す様に毛繕いを始め、期待外れの駄猫をほっといて、二人は自力で探すことにした。それから数時間、辺りをくまなく捜索すると、案外トリュフは地上に顔を出していて6個ほど見つかる。茶次郎もその実物を見て匂いを嗅ぎ、ようやく理解して4個ほど咥えて集めてくれ、汚名返上を果たした。周囲が薄暗くなり、田中は潮時と感じ、回収箱にある、10個のトリュフを眺めながら、「先生・・あと、どれ位が必要なんですか?」と落ち葉を掃って探している谷村に尋ねる。谷村は中断し、「あ?、100個位は必要だな」と答えた。田中は驚き、「無理無理!、こんなに探してもこれぐらいしか見つからないんですよ?、100個なんて絶対無理ですよ!」と回収箱を持ち上げ谷村に見せつける。谷村は少し考える仕草をし、「うーむ・・考えが甘かったか・・この山なら楽勝だと思っていたがな・・どうしよう?」と言い不敵な笑みを浮かべ茜色の空を見上げる。田中は顔を青ざめながら、「どうしよう、じゃねぇよ!、どうすんだよじじい!、このままだと返礼品詐欺になるだろうが!」と叫ぶ。田中の声が山にこだまし、谷村は興奮している田中を横目に茶次郎をひょっいと持ち上げ抱きかかえ、「まったく、あの怖いお兄ちゃん、私は嫌いだよ」と話しかけ、それに対して茶次郎は、「うにゃうにゃ」と返し、「そうか、お前も嫌いかw」と谷村は勝手に解釈。谷村の突然始まった茶色い毛玉を使った人形遊びに田中は呆れ、「もういいです!、明日一番にハローワークに行きますから!、あんたは精々詐欺で捕まらない様に祈るんだな!」と三下り半を突き付け帰ろうとした。その田中に谷村は、「まあ、待て助手君」と引き留める。田中はピタリと歩みを止め、「何ですか?、引き留めても無駄ですよ!」と言う。谷村は口を開き、「まあ落ち着け、冗談だw、本当は返礼品の宛てあるし、なによりも返礼品は指定してないから大丈夫だw」と種明かし。谷村の言葉を聞いた田中はへなへなと座り込み、「ふざけんなよ、じじい!」と怒りながらもどこか安堵をした表情を見せた。谷村はこれ以上のトリュフ探しは無駄と判断し、再び茶次郎の案内で下山を開始。そして、先ほど通った獣道を逆に進む。道中、長い沈黙が流れていたが田中は口火を切り「先生、何でトリュフで返礼しようとしたんですか?」と前を歩く谷村に尋ねる。谷村は振り返らず、「嬉しかったんだ・・、私の様な人間に手を指し伸べてくれた彼らに私が出来る最大級の返礼をしたかったんだ・・」と答え、その背中に哀愁が漂う。田中はすかさず、「なら、先に言ってください・・、俺は助手ですよ!」と言う。ほんの少しの沈黙の後、谷村は「そうだな、すまなかった」と素直に謝る。二人のわだかまりが解け、その一部始終を耳を傾けて聞いていた先頭を歩く茶色の毛玉は、不器用な奴らだと思い、やれやれと溜め息を吐いた。

 

 その後、谷村たちは、無事下山をし、茶次郎が長門家の門を潜った事を見届けると、帰りがけにスーパーに寄りパスタを買い国産トリュフを贅沢に使ったカルボナーラを堪能した。そして翌日、谷村たちは、とある場所に向かっている。それは谷村の教え子が経営している大松酒造だ。大松酒造ではクラフトコーラに参入したが失敗。大量の原液が残り処分に困っていた。谷村がその事情を知ったのは数ヶ月前の事で、研究室の元にクラフトコーラのダンボールケースが手紙と共に来た時だ。手紙には処分に困っているので飲んでくださいと書かれていた。谷村はトリュフを断然した後、即座に連絡を取り、未だに在庫を抱えている事を確認をし、事情を説明。先方の大松は快諾をしてくれ、返礼品の送る住所のリストを手渡すために谷村たちは車へ乗り込んだ。大松酒造は谷村たちが所属しているど田舎大学がある地域より更に田舎にあって、高速道路を使いひたすら下りを進む。最寄りの出口を降りると一面の鮮やかな黄金色の大麦畑が広がり、田中は、「すげー」と感嘆の声を出す。運転をしながら谷村は、「これらは大松酒造のビールの原料に使うんだ、昔はもっと盛大にやっていてな、これでも縮小をした方なんだぞ」と言う。見渡す限りの大麦畑を谷村たちの車が走り抜けると、大麦が揺れて波打ち、進行方向には大きなタンクが数個立ち並び、目的地の大松酒造が見えた。谷村は入口の守衛さんに事情を話し、教え子である大松に連絡を取って貰うと、事務所がある棟に行くように促される。事務所の棟に着くと手を振り出迎える中年太りで恰幅がいい大松がいた。谷村たちは早速車から降り出迎えてくれた大松の元へ行く。谷村は教え子が経営している大松酒造をキョロキョロと見渡し、「大松!凄いじゃないか!」と開口一番に言う。大松は、「先生、お久しぶりです、止めて下さいよw、これでも他の酒造会社さんに比べると全然大したことが無いんですよw」と謙遜。谷村はニッコリ笑い、「フフw、謙遜するなw」と返す。そして、谷村の後ろにいた田中は前に出て来て、「どうも、田中と申します」とお辞儀をする。大松は田中を見据え、「君が噂の子かw、どうも大松です」と握手を求め、二人はガッチリと握手を交えた。教え子二人の邂逅を微笑ましく思い微笑んていた谷村は、「早速で悪いんだが、これが返礼品の送る住所リストだ」と懐から紙の束を出す。大松はそれを受け取り、「ええ、喜んでクラフトコーラを送らせていただきます」と言い、更に、「せっかくですからクラフトコーラを飲んで行かれます?」と打診。谷村は笑顔で、「ああ、喜んで!」と快諾し、事務所に入った。事務所には通された二人は、ソファに座りながら歴代の大松酒造の社長写真が飾られていて、それらを眺めながら待つ。数分すると大松が大松コーラとデザインされた瓶とグラスを持って来た。栓抜きで瓶の蓋を取った瞬間に、「シュッパ」と小気味いい音が鳴り、瓶を傾けグラスに注ぐ。谷村と田中の二人は注がれたグラスを手にして、それを煽り飲む。谷村は、「ごふっ、まあ、可もなく不可もない学生時代のお前の卒論の様な味がするコーラだな」と酷評。大松は顔を引きつりながら、「はは・・、先生は相変わらずですね」と言い、すかさず田中が、「すいません、すいません、複雑お年頃なんです」と必死の謝り。大松は笑い、「君が謝らなくていいよ、それに先生の傲慢さは慣れているからねw」と言って、「まあ、このコーラは全く売れなかったから、言い訳もできないよ・・」と寂しそうな眼をした。谷村は大松の肩を叩き、「しょぼくれるな!、始めっから上手く行く事なんか絶対ないんだ!、私を見ろ!、数十年もマツタケの人工栽培の研究をしても未だに上手く行ってないんだぞ!」とドヤ顔。大松は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をし、「はははw、そうですね!、先生に比べれば僕なんかまだ一年、諦めませんよ!、お酒の消費が年々下がっている今の世に、僕はこのクラフトコーラに活路を見出したんです!、絶対に成功させますよ!」と新たな決意表明をした。教え子である大松の新たな決意を見た谷村は逆に勇気を貰った気がして、倒れるまで研究を続ける決意をしたのだった。

 

ーおわりー

 

 

 

334曲目の紹介

 

 今回ご紹介する曲は、動画・作曲をseceno ichiroさん、作詞をcetaclecoさん、イラストをおうしめぐさん達による未完のタピリスです。

 

 本曲はケルト調の音楽に乗せ、紡ぎ紡がれ人から人へと伝わった未だ完成に満たない曲に、遥か昔に失われた人たちの残滓(ざんし)を感じて想いを馳せ、揺蕩う(たゆたう)時の流れによって織り込まれたノスタルジーの曲に花隅千冬さんが歌を吹き込みます。

 

 本曲の題名未完のタピリスは、恐らくですがそのまま意味と思われます。遥か昔に作られた未完の曲が記された織物に、未来の誰かが完成させて欲しいという想いがこもったロマン溢れる題名だと思いました。

 

 


www.youtube.com

 

 

 本曲の様な民族調の曲は、切なさと言いますかノスタルジックで感傷的な印象を受けて、聴き終わると何とも言えない心にジーンとするものがありますね。

 

 本曲、未完のタピリスの遥か昔に作られた未完の曲に込められた想いを物語にした曲は、聴き手に失われた者たちへの感傷的な想いが込みあげ、その永遠に紡がれていくだろう物語に自然と想いを馳せてしまう素晴らしい曲だと思いますので是非!、本動画を視聴して聴いてみて下さい。

 

お借りしたMMD 

Tda様より

Tda初音ミクV4XVer1.00

 

ニコニコ大百科様より

花隅千冬