煮干しの一押しVOCALOID曲

VOCALOIDの話題や気になった事を書こうと思います

誕生日という、過去と未来の分岐点を歌うVOCALOID曲

こんにちは こんばんは 煮干しです

 

 映画でお馴染みの、豪華客船タイタニックの見学ツアーで音信不通になった潜水艇タイタンがの破片が見つかり、乗っていた操縦士並びに乗客は死亡と判断したようです。死亡原因ですが爆縮と言う現象らしいです。自分は全く知らなかったんですが、深海で爆縮が起きると空気が圧縮されたことによる熱エネルギーによって、中の人が一瞬で燃えて無くなるそうです。よく深海に潜って調査している科学者の方々がテレビなどで放送されてますが、あれは命懸けなんですね・・。それでは309曲目の紹介とちょっとした物語をお送りしたいと思います。

 

まず始めに、この物語はフィクションです。物語の中に登場する個人名、団体名、会社名は架空の物であり実在する個人、団体、会社とは関係ありません。

 

※題名や挿絵にBing Image Creatorを使用しました

 

曲の紹介は下の方にあります!物語を飛ばしても構いません。

 

 

 「もっと安くならないの?」と先方の担当者が見積もりを睨みながら私に言う。新人の営業見習いが社内資料を見回して無駄な足掻きを横目に見つつ、「見積書の値段は弊社のギリギリの設定でございまして、これ以上はちょっと・・」と私は先方の要求を遠回しに拒否する。「お宅の製品さ、値段の安さだけが長所なんだから、こんな値段だと国内メーカーにした方が良いよ・・」と先方の担当者が説教じみた言い方で私に言った。確かに私もそう思う。同じ値段と性能で、国内メーカーの保証がある物と、海外メーカーの保証が全くない物なら、私だって国内メーカーを選ぶ。「申し訳ありません、またご縁がありましたら、その時はよろしくお願いします」と営業一筋25年の私が何百何千と繰り返した台詞を言い、新人の部下と共に一礼して先方の会社を後にした。「もう無理っすよ・・、国内メーカに切り替えた方が良くないっすか?」と新人が最寄り駅に向かう道すがらぼやく。我が社の主力製品である海外メーカー製が最近の円安によって、見事に値段の安さというアドバンテージが無くなり、弊社の業績は右肩下がりになった。「今更、国内メーカーとの繋がりを作るか?、時間も予算もうちの会社に無いよ」と私は新人のぼやきに返す。「でも、うちの会社ヤバいっすよ」と右も左も分からない新人でも分かる程、うちの会社は迷走している。まずい、このままの雰囲気では明日の営業に差し支えそうだ。「よし、今日は直帰にしよう、飲みに行こう!」と私は新人を誘う。「えー・・飲みに行くんすっか?」と新人は私の誘いに迷っている。「お前なー、私の時代だったら二つ返事でお供していたぞ」と私が新人に苦言を呈した。「えっ・・了解っす!お供します!」と新人は少し迷い、私の苦言が功を奏したのか了承する。私たちは、馴染みのBARに行く事にして、タクシーを拾い向かった。私の名前は山下拓郎、営業一筋25年、これと言った取り柄が無い男だ。

 

 「だからっすね、うちの会社はもっと積極的に動くべきっす!」と余り気が向かない感じだった新人は、駆けつけにウイスキー二杯飲んで既に出来上がっていた。「おいおい、大丈夫か?自分のペースで飲まないからそうなるんだぞ」と私は新人を窘める。「大丈夫っす!、これくらい・・よっぱらっ・・て無いっす・・」と新人は言葉を途絶え途絶え言い、最後には寝てしまった。こりゃあ、タクシーを拾って自宅に届けなくてはな・・。酔い潰れて、カウンターにうつ伏せになっている新人を眺めながら、グラスに入っているウイスキーを一飲むため、グラスを傾けると中の氷がグラスにぶつかり「カラン」と小さく鳴らす。その時、「大変ですね、あなたの部下ですか?」と隣の男が私に話しかけて来た。男はオールバック、グレーのスーツ姿でサラリーマンと言ったところだ。「はあ、お恥ずかしい限りですが、そうです」と私は答える。「あなたの事を信頼しているからこうして酔い潰れるまで飲めるんですよ」と男は私を称賛した。「あまり褒め慣れてないので、何だかムズムズしますねw」と私は男の称賛に恥ずかしさと嬉しさが入り混じった感じになる。つかみはOKとばかりに男はうちポットから何やら革製の物を取り出す。そこから名刺を取って「私、こういう者です」と男は言い私に差し出した。私は名刺を受け取り、それを見ると、誕生日屋、コンシェルジュ、轟陽介と記されている。誕生日屋?、何だろうか?イベント会社か・・?。「あの・・誕生日屋って何ですか?」と私は素直に思った疑問を轟さんにぶつける。「弊社は、誕生会をプロデュースする会社です、お客様の記憶に一生残る素晴らしい体験ができますよ」と轟さんは営業トークに切り替わり、そして、革鞄からパンフレットを取り出し私に渡す。パンフレットを見ると、あなたの記憶に一生残るとか、ファンタジーな体験とか、ありきたりな宣伝文句が書かれて、画像にはそのプロデュースした誕生会の一部始終が載っていた。「轟さん・・声を掛ける相手を間違いましたね、私は恋人はおろか、孤児なので家族、親類縁者もいません、会社の人間もプライベートまでの関係はは無いですし、ですから、私を祝ってくれる相手はいませんよ」と私は嘲笑気味に言う。しかし、轟さんは全く怯まず、「寧ろやるべきです、弊社はあなたの様な人に満足いただける誕生会が可能です」とグイグイと迫ってくる。「凄いですねw、私もあなたの様に自信をもって自社の製品を売り込みたいもんだ」と今度は私が轟さんを称賛した。「申し訳ありません・・、つい熱中してしまいました、もし気が変わりましたら、弊社の住所と電話番号が名刺とパンフレットに記されてますので、是非ご一報を」と轟さんが少しトーンダウンして言い、グラスに入ったお酒を飲み干し、「それでは、良い返事をお待ちしております、失礼します」とBARを去る。取り残された私は、マスターに煙草を頼み、火を灯し、一服した。爽やかな林檎の香りがする、このBARオリジナルの煙草はやはりいい。紫煙が漂う中、パンフレットを見直すと私は、自分の誕生日を孤児院を出てから一度もやっていない事に気が付く。一生残る思い出か・・無趣味な私は幸いなことに多少の金ならある。結婚はする予定は無い、使う予定も無い。たまには酔興な事をしても良いだろう・・。私は誕生日屋とやらのサービスを詳しく聞いてみようと決めて、新人を起こす。「あれ?、山下さん?ここは?」と新人は寝ぼけていて、足元はフラフラだ。マスターにタクシーを呼んでもらい、待っている間、新人には水を飲ませて少し酔いを醒まし、数分後に来たタクシーに乗って家路に着いた。

 

 会社の定休日、私はパンフレットに記されていた地図に従い、誕生日屋に向かっていた。電話で連絡するのは少し気が引けたので直接出向く事に。ここら辺だよな・・。私はキョロキョロと辺りを見回す。近くの神社の森の群生によって都心とは思えない風景だ。野鳥の囁きが聞こえ、葉と葉が擦り合う音がして、時より木が軋む音がする。注意深く探すと、神社に隣接している平屋で和風モダンな建物に誕生日屋と書かれた看板が立てかけられていた。私は早速訪ね、中に入る。誕生日屋は、15畳ぐらいの広さで机が一つとコピー機が一つだけ、観葉植物が所狭しとあるオフィスだった。私の存在に気が付いた轟さんは「いらっしゃいませ!」と元気のいい声で私を出迎えた。そして、私の事を思い出し、「ああ!あなたは!、BARであった方じゃないですか!どうぞ!」と一つしかない机の前にある、来客用の椅子に着く様に促す。私は促されるままに、私は座った。「迷いませんでした?、この会社、神社の一部みたいに見えて、お客さんがよく迷うんですよ」と軽快に会話を轟さんはし始める。「まあ、多少は」と私は短く返す。「何にしてもたどり着けて良かったです!、それではまず、お名前をお願い致します」と轟さんは私に名前を尋ねた。「山下拓郎です」と私は名乗る。「それでは山下様、弊社から提案するプランを大まかに分けますと、最上級のプラチナプラン、必要なオプションを取り揃えてあるゴールドプラン、リーズナブルな価格設定なシルバープランです」と轟さんは言いながら、私に資料を見せた。資料を見ると最上級のプラチナプランはなんと百万もする。想像以上の値段設定で少し気後れをしている私の態度を悟り、轟さんは「弊社はローンも承っていますよ、金利も今ならお安くしておきます!」と轟さんは手慣れた感じで電卓を叩き、「今なら、24回払いで、プラチナプランでしたら、月払い42000円です」と電卓の数字を私に見せた。「支払いは後で考えます、まずはサービス内容を教えてくれませんか?」と私は轟さんに尋ねる。私の要望を受け、「承知いたしました、まずはその前に質問をさせて頂きます、誕生会に呼ばれる方などいますか?」と轟さんは質問をする。「いや、誰も呼ぶ予定はありません」と私は返す。正直、誕生日屋とやらが、ゲストを呼ばない私の様な者にどの様なプランを提供できるか楽しみだ。「左様ですか・・、山下様それでしたら、好きなアイドルとか、タレント、またはキャバ嬢をお呼び出来ますがどうします?」と轟さんは言う。そう来たか・・孤独な者にはキャバ嬢やホストを宛がうというのは想定内だが、アイドル?タレント?、百万ぽっちで出来るのか?。「あの・・芸能界の事は良く知りませんが、アイドルやタレントさんのギャラは百万位でどうにかなるとは思えないんですが?」と私は轟さんが馬脚を露す事を願いつつ尋ねた。「ご安心ください、弊社の独自ルートを使い、一流アイドルやタレントを格安で呼ぶことが出来ます」と轟さんは自信満々。何だか・・うさん臭くなってきたな。しかしな・・ここまで来て帰るのはな・・。「あの、プラチナプランは百万ぽっきりで追加料金とか無いでよね?」と私は確認をする。「ご安心をください山下様、弊社は最初に提示した料金以上のお金を請求を致しません、更に、弊社のプロデュースする誕生会を開催して、お気に召さらないなら一か月以内ならクーリングオフも可能です!」と轟さんは答えた。本当に?、クーリングオフが出来たなら、皆するんじゃないか?。「えっ、クーリングオフなんか設定していたら、イベント業何て成り立たないんじゃないですか?」と私は心配になる。「弊社のサービスを受けた客様方は皆、満足をして頂き、一度もクーリングオフをなされた客様はございません、弊社のサービスにはそれだけ自信があるので、設定しているのです」と轟さんは私の目を真っ直ぐ見て言った。へー、面白い、興味が沸いたw。「うん、契約します!、プラチナプラン、現金一括払い、あっ、正し、人を呼ぶのはキャバ嬢やアイドル、タレントは除外で後はそちらのお任せで」と私が言う。「ありがとうございます!、承知いたしました、要望通りタレントやアイドル、キャバ嬢はお呼びいたしません、山下様の記憶に残る誕生会をさせて頂きます!それでは現金払いという事ですが、いつお支払い頂けますか?」と轟さんは感謝しつつ私に尋ねた。実は不用心だが、銀行から降ろして現金をバックに入れていたのだ。「今、支払います、どうぞ」と私は銀行の帯封に巻かれた札束を一つ差し出す。「少々お待ちください」と轟さんは、机の引き出しからマネーカウンターを出し、帯封を取って入れた。そして数分後、「確認が終わりました、確かに百万円をお預かりします!、領収書を発行しますので少々お待ちください」と轟さんは机にあった領収書用紙に手慣れた感じで書く。そして、それを私に手渡しながら、「申し訳ありませんが、山下様のお誕生日をお教え願えないでしょうか?」と轟さんに聞かれ、「7月11日です」と嘘の誕生日を教えた。まあ、用心を越したことはない、現金払いにしたのも、後腐れが無い様にしたいからだ。「承知いたしました、それでは最後に、準備が出来次第、詳しい日程をお知らせしたいのですが、日中にご連絡がつくお電話番号を、お教えお願え出来ませんでしょうか?」と轟さんが尋ねた来たので、会社から持たされた携帯電話の番号を教えた。「山下様、楽しみにお待ちください!」と轟さんは深々とお辞儀をし、「楽しみにしています!」と私は返し、お誕生日屋を後にした。

 

 「何すっか?、その赤い丸」と新人が言う。私たちは営業先の近くにあった定食屋のカウンター席にて、お昼休憩をしていた。私はアジフライ定食、新人はかつ定食を頼み、カリカリに上がったアジフライをかじり、衣の中の脂が乗った身を味わいながらシステム手帳に書かれた予定表を眺めてニヤついた時だ。どうやら新人は隣から覗いていたらしい・・。「お前ね・・、人の手帳を盗み見るなよ・・失礼だぞ」と私は新人に教育的指導をする。「すいませんw、でも、その赤丸何すっか?」と新人は平謝りをして再び尋ねてきた。「別にいいだろ・・」と私は適当に返す。「えー、教えて下さいよw、山下さん独身っすよね?、もしかして彼女さんとのデートの日っすか?」と新人は証拠にもなく尋ねて来る。「違うよw、内緒w」と私は新人の要望に応えなかった。「まあ、いいすっけどw、山下さんってアナログ人間なんっすねw、予定を書き込むのはこれっすよ!」と新人は謎の上から目線で、スマホを持ち出し、わざとらしく見せる。「うるさいな、紙の方が記憶に残りやすいんだよ、それに、スマホの画面って小さいだろ」と私は新人の意見に対して反論。「うわっw、山下さんって、もう老眼なんですか?」と新人は私の痛い所を突く。「全く減らず口ばかり、とっとと、昼飯を食べろ!、次の得意先に行くぞ」と私は苦し紛れに言い、「はい、了解したっす!」と新人は相変わらず返事だけは良かった。その日は得意先を御用聞きのように回り業務は終了して、私は帰りを誰も待たない我が家に帰り、スーツの上着をハンガーに掛た時だ。「リリリ」と会社から渡された携帯電話が鳴る。着信番号は見知らぬ番号からだ。しかし、心当たりがある私は迷わず電話に出る。「誕生日屋の轟でございます、夜分遅く申し訳ありません、こちらは山下様の電話でございますでしょうか?」と携帯電話の受話口から聞こえた来た。「はい、そうです、山下です」と私は返す。「大変お待たせしました、段取りが出来ましたので、日程のお知らせと御確認をさせて頂きます、7月11日の午後7時にて都内のフレンチレストラン、セボン・サヴァの個室にて、誕生会をさせて頂きますが御都合は大丈夫ですか?」と轟さんは言う。「はい、大丈夫です、問題ありません、当日はよろしくお願いします」と私は答えた。「こちらこそよろしくお願い致します、当日の誕生会は楽しみに待っていて下さい」と轟さんは言い、「はい、楽しみにしています」と私は応え、「それでは失礼いたします」と轟さんは言い通話を終えた。ふー、当日はどうなるんだろう?、セボン・サヴァっていえば、都内有数の高級フレンチレストランだ。そこの個室を予約できる何て、誕生日屋って凄いんだな。私はシステム手帳を広げ、赤丸で囲んでいる日付に時間と場所を加えて、「ぱん」と音を鳴らし手帳を閉じた。

 

 そして当日、日中はうだる様な暑さだったが、夜になるとある程度涼しくなり、高級フレンチレストランという事もありドレスコードに引っかからないように、少し前に都内某所のテーラーで仕立ててもらったスーツと、高級ブランドの革靴を履いて向かう。セボン・サヴァに着くと、轟さんが入り口で待っていて、「お待ちしておりました、こちらへどうぞ」と言い、私を先導する。お店の中に入ると、スタッフがお辞儀をして私をもてなす。流石、高級フレンチレストランだ、スタッフの教育が行き届いている。轟さんの先導で個室の前に着く。轟さんはドアをノックすると、「どうぞ」と中から声がした。私と轟さんが個室に入ると、見覚えが無い、夫婦だろうか?、30代位の二人組の男女がいた。轟さんはテーブルの椅子を引き「山下様どうぞ」と私を席の着くように促す。私は素直に座り、正面にいる男女を、改めて見る。やっぱり知らない人たちだ・・、私の予想は芸人などのパフォーマンスをする人を呼び、喜ばせてくると思っていたが・・これは予想外だ。いや、もしかしたら、私が知らないだけで、夫婦漫才の売れっ子なのかも知れない。私があれやこれやと考えていると、「それでは山下様の誕生会を開催したいと思います、まずは、山下様!お誕生日おめでとうございます!!」と轟さんは言い、拍手をしる。すると、見知らぬ男女も、それに同調して拍手をしてきた。私は恐縮して、二人に軽い会釈をする。「これからフルコースのフランス料理が順に運ばれます、お待ちの間、山下様、お二人とごゆるりご歓談してください」と轟さんは私に見知らぬ男女を会話を促し、一礼して退席した。えっ・・、どういう事?、知らない男女と話す事なんて無いぞ。「・・あの、今日は暑かったですね」と、とりあえず私から彼らに話しかける。「そうなの?、私たちが来たときは夜だったから、分からないわ」と女の方が答えた。こ、これはどういう設定なのだろうか?、来た時は夜だった?意味が分からない。これはサプライズの前触れなのか?。私が困惑していると女性が口を開き、「拓郎は何歳になったの?母さん知りたいわ」と言う。母さん?、ははあん、そう言う事か!、まさかオカルトの方向で来るとはw。まあ、こういうのはこっちも乗らないと詰まらなくなるからなw。「もう、45歳になったよ」と私は自称母に伝える。「45!、立派になって!、私たちの年を越えたのね」と自称母は涙ぐむ。そうか!役者なのか!、凄いな・・、きっと舞台か何かで活躍しているに違いない。「そうか・・父さんも嬉しいよ」と今度は自称父が口を開いた。「結婚は?奥さんいるの?」と自称母が再び私に尋ねる。「えっ、お恥ずか、いや、してないよw」と私は敬語を中断して、自然な親子の会話に切り替えた。「45でしょう、まだ間に合うわ、誰か良い人いないの?」と自称母が更に私を問い詰める。「残念ながらいないよ・・」と私は勢いに押されて言う。「止さないか、仕事に勤めて、立派に生きているだけで良いじゃないか」と自称父が自称母を制した。それから、オードブルが来て、私たちはもくもくと食事をする。

 

 料理は文句ない。しかし、この余興はイマイチ盛り上がらない。お任せにしたのがまずかったか・・。こうなったら、開き直って行くか。「母さん、父さん、年はいくつなの?」と私は二人に尋ねた。二人は顔を見合い、「私が32で、父さんは33よ」と自称母が代表して返す。「わた、僕が生まれた時は何歳だったの?」と私は破れかぶれで言う。「先程母さんが言った年だ」と今度は自称父さんが答えた。「じゃあ、僕が生後間もない時に、父さんと母さんは死んだって事?」と私は容赦なく問い詰める。私は両親の事を一切知らない。養護施設の先生が頃合いを見て教えてくれようとしたが、私が拒否したのだ。「そうよ、家族三人で車で出かけた時にね、交通事故に巻き込まれたの・・」と自称母は悲しい顔で言った。随分踏み込んだ所まで設定をしている・・もし、私がある程度両親の事を知っていてらどうするつもりだったのか?。本名しか伝えてないのに、調べればそこまで分かるものなのか?。考えれば考えるほど、あり得ない状況だ。「あの、本当の僕の誕生日の日、分かる?」と私はダメ押しとばかりに自称両親に尋ねる。「ああ、知っているとも、9月12日だろ、何で今日を誕生日と偽っているんだ」と自称父があっさりと答える。私は本当の誕生日を言われ心がドキンとした。この二人はかなり正確に私の情報を知っている。霊感商法やオカルトの演出にホットリーディングと言う対象の事を調べつくして、あたかも不可思議な力や現象で知りえたように見せかけるのがある。もしかして、それなのか?。しかし、私の持っている情報と知識では彼らの行いを論破する事は叶わない。もう、どうでもいいや・・このまま流れに任せるか。彼らが私の両親を演じる様に、私も息子を演じて、フレンチのフルコースに舌鼓をした。そして、偽りの親子の会話で私の名前の由来が分かる。拓郎の拓は山下家の男子が代々受け継がれていた名前だそうだ。話半分で聞いたが・・。料理が全て出され、ドアが開き、轟さんが帰ってきた。「山下様、これで誕生会はお開きになります、ご両親との再開いかがでしたでしょうか?」と轟さんは満面の笑みで私に訪ねる。「えっ、あ、まあ、感動しましたよ」と私は不覚にも思ってもいない事を言ってしまう。「左様でございますか!誕生日屋冥利の尽きます」と轟さんは私の言葉を真に受ける。「それではお店の玄関までお送りします」と店に入ってきた時の様に轟さんは私を誘導して入り口まで来た。「それではまたのご利用をお待ちしています。本日は真におめでとうございます」と轟さんは深々とお辞儀をして、私を送り出す。私は無言で去り、何とも言えない気持ちを抱えながら家路に着く。その道中、私は振り返り、「あの、お二人は何処までついて来るんですか?」と先程迄、茶番を演じていた自称両親に尋ねた。「ごめんなさいね、最寄りのバス停が同じ方向にあるの、もう少し拓郎と一緒にいたいけどね・・」と自称母が言う。「バス停・・、バス停ってあれですか?」と私は数10メートル先にあるバス停を指す。「そうだ、我々は来た時もこのバス停を使ったんだ」と自称父が言う。そうこうしていると、私たちはバス停の前まで来て、自称両親はベンチに腰を掛け始めると、ものの1分も経たず、何処から現れたバスが来る。バスは真っ黒で見た事が無いカラーリングだった。バスが停車して、自称両親が立ち上がり、「じゃあな、拓郎」と自称父は言い、「体には気を付けてね」と自称母が言い、バスに乗る。私は彼らに手を振りバスを見送り、バスの後部にある行先票には彼岸と表示されていた。最後の演出は良かったな・・。しかし、百万円の費用対効果があるかと言えば微妙だ。ちょっと酔狂すぎたか・・。私は、やりきれない、もやもやした気持ちを振り払うために、馴染みのBARに向かった。

 

 一月後・・、心のもやもやがまだ取れなかった。私は休日を利用して、育った養護施設に向かう。18歳まで育った施設は昔のままで、子供たちの笑い声に溢れていた。事務室に訪ねてると、見覚えがある女性職員さんがいる。「すいません、この施設を退所した山下拓郎という者です」と私は話しかけた。すると、女性職員さんはこちらを見て、「拓郎君?、嘘でしょ?、老けたわねw」と女性職員さんは私が誰か気が付いた様子。「老けたのはお互い様ですよw」と私はお返しとばかりに返す。「言う様になったわねw、それで何の様かしら?」と女性職員さんが私に尋ねた。「実はですね、今更ですが私の両親の事を聞きに来ました」と私は答えた。「拓郎君の両親の事?、分かったわ、応接室で待っててね」と女性職員さんは私を応接室で待機する様に促し、私はそれに従い応接室で待つ。10分位すると廊下を歩く音がしてドアが開き、「お待たせ、拓郎君の私物よ、本当は退所の時に渡す予定だったけどね」と段ボール箱を机に置き、女性職員さんはソファーに座る。私は目の前に置かれた段ボール箱を早速開けると、中には破損した免許書、幼い私が身に着けていたであろう服や玩具が入っていた。「あの・・私の両親はどうしたんです?」と私は女性職員さんに尋ねる。「あなたの両親はね・・交通事故に巻き込まれて亡くなったわ・・あなたもその車に乗っていたんだけど、奇跡的に無傷で助かったの」と女性職員さんは、淡々と答えた。その事を聞いた私は心がざわつく。誕生会の自称両親たちが言った事と同じだ「あの、その事を他の誰かに教えた事は無いですか?」と私の胸の鼓動が少し早まる。「えっ?、そんな訳ないじゃない、個人情報を無暗に教えるのは違法よ!、ましてや施設の子供を売るような真似する訳ないじゃない!」と女性職員さんは少し憤慨した。「すいません、疑って・・、あの申し訳ないですが、あと一つ、私が施設に入った経緯を知っている職員さんは今どうしてます?」と私は恐縮しながら再び尋ねる。「君を知っている職員?、君が施設に入ったていた時、確か私が一番若くて、他の職員は高齢で私以外は皆、定年退職して、現在存命の方はいないと思うわよ」と女性職員さんは思い出しながら言う。そりゃあそうか・・私が退所して27年という歳月・・重いな・・。「今日はありがとうございました、この辺で失礼させて頂きます」と私は切り上げる事にした。「あら、もう帰るの?、今度はゆっくり話しを聞かせてね!」と女性職員さんは私に言い、「はい、必ず」と私は返し、養護施設を後にする。私は駅のホームのベンチに腰掛け、養護施設から貰った段ボール箱の中身から父の免許書を取り出し眺めた。免許書は、正面写真部分の箇所は破損をしていて、本籍地の住所だけは辛うじて読める。結構近いな・・お昼前だし、時間はまだあるな・・行ってみるか?、いや!、行こう!、こうなったらとことん調べよう!。私は家に帰る事を急遽やめて父の免許書に記されている本籍地に向かう事にした。

 

 数時間後、父の本籍地がある家の前に着く。父の実家だと思われる家は立派な農家の屋敷で、周辺は田畑が広がっていた。私は覚悟を決めて、屋敷の玄関のインターホンを押す。すると、玄関はものの数秒に開き、初老の男性が出て来た。「どなたですか?」と初老の男性が言う。「あの、私は山下拓郎という者です、こちらの免許書の持ち主に心当たりありませんか?」と私は破損した父の免許書を初老の男性に見せる。「山下・・拓郎・・、これは・・まさか!、お前!拓司の息子か?」と初老の男性は私が名乗った名前と見せた免許書で、全て察して驚く。「あの!父の名前は拓司と言うんですか?」と私も興奮しながら尋ねた。「そうだ、そうだとも、私の弟で、お前の父親の名前は拓司だ、そんな所に立っていないで中へ入りなさい」と初老の男性は私を屋敷に招き入れる。私はお言葉に甘えて初老の男性に促されるまま、屋敷に入り、床の間の様な仏壇がある部屋に通された。「あなた、何事ですか?」と私たちが座布団に座ると初老の女性が床の間に入ってきて言う。「驚くなよ、甥が帰ってきた!、お茶を頼む」と初老の男性は、恐らく妻で有ろう初老の女性にお願いをする。「まあ!本当に!?、直ぐお茶を持ってきますね」と初老の女性は驚き、屋敷の奥へ行った。「まずは名乗っておこう、私は山下拓明、お前の叔父だ」と叔父は名乗る。「初めまして、山下拓郎です」と私も返す。「まさかな・・あいつの息子が里帰りするとはな・・」と叔父は感慨深い様だ。「あの、何で私があなたの甥と判断したんです?」と私は尋ねた。「そりゃあ分かるさ、山下家の男児は代々拓の文字が付けると決まっている、あいつの免許書と拓の字が付く名前の男とくれば、甥に決まっている」と叔父は答えた。なるほど、床の間の上に飾られている先祖代々の遺影に書かれている名前にも拓の字が付いている・・誕生会で自称両親が言っていた事は本当の様だ。「あの・・大変失礼ですが・・私は何故、養護施設に入れられたのでしょうか?」と私が尋ねた時、「辺鄙な所によくいらっしゃいましね」と叔母がお茶を持って来て叔父や私に差し出した。「それはな・・」と話しづらそうな感じな叔父はお茶を一口。私も真似する様にお茶に口をつける。そして、「何の話ですか?」と叔母が気まずい雰囲気を打ち破った。「ほら、親父が弟を勘当した話」と叔父は叔母に言う。「ああ、そうですか・・」と叔母は言い、「まあ、私の親父、つまりお前の祖父がな、お前の両親の結婚に反対をしていたんだ・・でっ、反対を押し切って結婚をしてお前が生まれた・・暫くして事故に遭い、お前の両親は亡くなり、親父はお前を引き取る事を拒否したんだ・・当時の私は今ほど経済力も無く、親父に従う他なかった」と叔父は私のルーツを語る。そうだったのか・・。暫く三人のお茶をすする音が響く。その沈黙を叔父が破り、「そうだ、お墓参りに行かないか?、お前の両親は無縁仏になっていたが、親父の死後、私が引き取り山下家の墓に入れたんだ、どうだ?」と私に打診をしてきた。考えるまでも無く私は、「はい、喜んで」と快諾。その後、私たちは叔父の車に乗って、墓地へ行く。山下家の墓は高台の見晴らしの良い所にあり、遠くそびえ立つ山々の裾まで田畑が広がり、それらを夕陽で茜色に染め上げられていた。山下家の墓の前に行くと、両親の名が刻まれていて、私は両親の名前を知った。「あの、失礼な事を聞きますが、両親や私の事をつい最近、誰かに話しましたか?若しくは知っている方はいますか?」と私は叔父に尋ねる。「いや、話してないな、当時は親父が徹底的に隠したし、当時のことを知っている僅かな人は親父の世代だから、知っている人はいないと思う、何かあったか?」と叔父は答え心配をしてくる。「いえ、別に何もありませんよ、少し気になったもので・・」と私は言う。それから、私は周辺に一件しかない小料理屋で叔父に御馳走になり、定期的に帰ってくる事を約束して別れた。

 

 ひょんなことから、自分のルーツと両親の事を知ることが出来た私は、思う事があり誕生日屋を訪ねた。誕生日屋のオフィスに入ると「かた、かた、かた」とキーボードの音がして、一つしかない机でデスクワークに勤しんでいる轟さんがいた。「こんにちは」と私は轟さんに挨拶をする。彼は私を一瞥をすると、無言で再びパソコンに目を戻す。初めて会った時の様な愛想が無い。「どうでした?、両親の事を知って」と彼は作業をしながら言う。何故かは分からないが、彼は私の行動を全てお見通しの様だ。「あんた、何者だ?、私の過去をどうやって調べた?」と私は質問に質問で返す。「調べた?、ふふっw、違いますよ山下さん、全てを知っているだけです」と彼は頓珍漢な受け答えする。「答えになって無いぞ」と私は言った。「どうでもいいじゃないですかw、山下様、記憶に残る誕生会になりましたでしょう?」と私の質問を無視して彼は、己のサービスの評価を求める。「まあ、確かに残った・・」と不覚にも私は答えた。「左様でございますかw、不肖、この轟、至福の思いでございます!、しかし、これ以上詮索されるのも面倒でございますので、お開きにさせて頂きます!」と彼は深々とお辞儀をして、パソコンのエンターキーを「タン」と強く押す。「それはどういう意味だ?」と私が言った瞬間、プリンターから植物の葉が沢山出て来て私の視界を覆い、「それでは失礼致します、縁が有ったら、またお会いししましょう」と声が聞こえ、気が付くと森の中にいた。私は辺りを見回す。どうやら、ここは神社の一角の森の様だ。私は困惑しながらとぼとぼ歩いていると、「どうなすった?」と後ろから声がする。振り向くと、白い着物に紫の袴をきた老人、神主だろうか?。「あっ、いえ、ちょっと散策をしてみようかなってw」と私は本当の事を伏せ嘘を言い、その場を切り抜けようと試みる。「そうですか、気を付けなさいよ、この神社の森には、人と気まぐれに戯れる神様がいると伝わっておりますでの」と老人は振り向きもせず、神社の方へ去った。あれは、神様だったのか?、しかし、私には確かめる術はない。私は足早に森を抜けだし、帰路に着いた。それから、貰ったパンフレットと名刺、携帯電話の着信歴が忽然と消えていて、何度か誕生日屋があった場所に訪ねたが、誕生日屋のオフィスは見当たらなかった。フレンチレストランで会った二人は両親だった。あれから、叔父に写真アルバムを見せてもらい確かめたから間違いない。私は亡くなった両親に会った事になる。今でも夢を見ていたと思いたくなるが、その後の事を思えば、やはり現実だと認識せざる得ない。そして、あの偽りの誕生日に行われた誕生会で確実に私の何かが変わった、己のルーツを知った為かは分からないが・・、何か太い紐の様なものが巻き付いた様ながっしりとした、安定感が心にある。誕生日屋の轟さんにもう一度会って、改めてお礼を言いたい。

 

 

 今回ご紹介する曲は、EO(エオ)さん作詞作曲、イラストを高宮優さんによるあわてんぼうなハッピーバースデーです。

 

 本曲は、KRENTさんが企画した、鏡音レン・リンの15th anniversaryに参加した曲で、誕生日と言う特別の日を区切りにした未来に希望、過去には感謝する歌を、鏡音レンさん、鏡音リンさん、お二人が歌います。

 

 本曲の題名のあわてんぼうのハッピーバースディは、個人的な解釈なりますが、特別な日である誕生日を待ちきれない鏡音レン・リンの感情を表現した題名と思いました。

 

 

 キュートでゆったりした本曲は心が和みますね!。誕生日なんて、何十年もした事がないですが、たまにはやろうかなとと思いました、まあ、一人ぼっちの誕生会ですが・・

 

 本曲、あわてんぼうなハッピーバースデーは、ゆったりした曲調で聴き手の心を和ませて、誕生日と言う特別な日を少し違う角度で見るとまた違う特別さ感じさせてくれるという事を教えてくれる良い曲だと思いますので、是非、本動画を視聴して聴いてみて下さい。

 

 

お借りしたMMD 

Tda様より

Tda初音ミクV4XVer1.00

 

ニコニコ大百科様より

 

鏡音 リン・レン