煮干しの一押しVOCALOID曲

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名も無き恋の末路を歌うVOCALOID曲

こんにちは こんばんは 煮干しです

 

 長野県の立てこもり事件、岐阜県自衛官候補生のよる銃乱射事件と銃による痛ましい事件が立て続けて起きてしまいましたね。全く関係ないと思いますが、どうしても、連続で起きている強盗と紐づけしたくなる自分がいますよ。世相によるものか、はたまた、偶然に重なっただけか、いづれにしろ、犠牲なられた方々には、ご冥福をお祈り致します。それでは308曲目の紹介をとちょっとした物語をお送りしたいと思います。

 

まず始めに、この物語はフィクションです。物語の中に登場する個人名、団体名、会社名は架空の物であり実在する個人、団体、会社とは関係ありません。

 

※題名や挿絵にBing Image Creatorを使用しました

 

曲の紹介は下の方にあります!物語を飛ばしても構いません。



 高校一年生の桜が舞い散る春、私は同じ出身中学の兼ねてより好意があった、秋葉敏郎君に告白された。彼は明るくて素朴、そして、私が着飾らないで、ありのままの姿で接することが出来る数少ない人間の一人だ。断る理由も無く、私は快諾して、これからの高校生活に夢を見た。翌日、異変が起きる。彼が学校に来なくなったのだ。スマホで連絡しても全く連絡取れず、私は度々(たびたび)、彼の所属しているクラスの教室を覗いても彼の座席には彼の姿が無かった。その内、彼の親御さんから連絡が来て、彼が行方不明だと知らされる。不謹慎だが、何か至らない点があって嫌われた訳じゃないと分かって少し、ほんの少しだがほっとした。私と彼の関係は、告白されて、快諾した仲、つまり恋人同士だが、デートも、キスも、全くしてない。そんな、フワフワで曖昧な関係だが、心配なのは変わりない。私は彼の親御さんに捜索の協力を申し出て探した。彼が立ち寄りそうな場所での聞き込み、通学の最寄駅まえでビラ配りなどをして一年位経つと彼の親御さんがあなたの人生があるんだから、もう十分と告げられ、後ろ髪を引かれる思いが有ったが了承して、私は普通の高校生活に戻った。

 

 それからさらに一年後、高校三年生の春。私は登校中の電車の窓から景色を眺めていた。時折、姿を現す線路沿いの桜が電車の起こす風に煽られて花びらが舞っている。桜が舞うのを見ると、彼の顔が浮かぶ。東京では、年間、約八万人が行方不明になるという、彼もその一人になってしまったのだが、本当に何処に行ってしまったんだろう・・。彼の事を思いながら、流れる景色をぼんやりと見て、いつも通り過ぎるカムイと書かれた駅を見送る。先ほど通り過ぎた駅、カムイはよほど錆びれた町の駅なのか分からないが、登校時、下校時、どちらも人が駅のホームに待っている姿を見た事が無い。各駅停車のみ、停車する駅だと思うが・・。まあ、そんな下らない、事を考えても意味は無い。私はブルートゥースイヤホンを指して、お気に入りのボカロ曲を聴きながら、最寄り駅に着くのを待った。

 

 学校の授業も終わり、部活動をしてない私は家路に着くだけだ・・彼の捜索を一年間していたお陰で、友達は一人もいない。授業を受けるために往復する毎日。私は駅に着くとホームに行き、ベンチに座って快速電車を待つ。イヤホンでボカロの曲を聴きながら、向かい側のホームに女子高生のグループが楽しそうにお喋りをしている。私もあの様になるはずだった・・もし何も起きなかったら彼氏とデートなどして青春を謳歌したはずだ。何でこんな事になってしまったんだろうか?。これ以上、彼女達を見ていると後悔、嫉妬、羨望から来る、どす黒い感情に塗りつぶされる気がして、私は視線を移し、電車が来る方向を見た。すると、電車がホームに滑り込んで起きる風が首から背中に当たり、私は反射的に振り向く。駅のホームに停車したのは各駅停車の電車だった。たまには各駅停車で帰っても良いか・・どうせ、行先は同じだろう。私はいつもの快速ではなく各駅停車の電車に乗る。電車の中は何故か客が一人もいなかった。こんな事があるのだろうか?、田舎の路線ならいざ知らず、都心に近い路線で珍しい事もあるのだ。誰もいない車両に戸惑いを感じたが、私は車内のシートに座る。それから数分後、いつもなら通り過ぎていく駅に止まりながらも電車は進む。不思議なのは駅に停車しても誰も乗り込んでこなかった。この辺りから何かおかしいと感じ始めた私はキョロキョロと辺りを見回し、駅に停車するたびにホームを覗き人を探すが誰もいない。まさか、回送列車じゃないよね・・。不安がピークに達した頃、カムイ駅に電車は止まる。通学、下校時にいつも見ていて不思議に思っていた駅だ。躊躇してられない、私は構わず降りた。

 

 カムイ駅のホームは人影はおろか、話し声すらしなかった。ホームの伝言掲示板には次の電車予定に未定と書かれていて、それが不気味さを一層、際立てさせる。私はオドオドしながら改札口に向かう。改札口も駅員の姿も無く、改札口の機械音だけが鳴っていて、慎重に定期券を読み取り機に触れさせると、ガッシャと音と共に改札扉が開く。私は改札口を通り抜ける。こんな不気味な所から立ち去りたかった私は、急ぎ足で駅の階段を降りて外に出ると、ロータリーがある駅前に出た。「何これ・・」と私は思わず呟く。駅の外に出ると、先ほどまで夕方だったはずが、外はすっかり日が落ちていて、街灯が点き、ロータリー沿いの店と看板のネオンの照明が煌々と照らしいる。そして、相変わらず人がいないのだ。私は茫然として、固まっている。その時、後ろの駅から「バン」と大きな音が鳴り、反射的に私は振り向く。駅は消灯していて真っ暗になっていた。駅って・・消灯する施設だっけ・・?。もう、訳が分からない。完全にパニック状態で呼吸も荒くなり、足ががくがくと震え、力が入らない。わたしは・・電車の中で居眠りをしていて、これは夢ではないのか?。現実逃避をし始めた時、「ばん」と再び音がする。音が鳴った方向を向くと、先ほどまで照明が点いていた店が消灯していて、更に、「ばん、ばん、ばん」と連続で鳴り続け、その度に街灯や店の照明、ネオンが消灯していく。遂には、奥の方の店、一つだけ残して真っ暗になった。

 

 全くの暗闇。私はスマホを取り出すと、画面には電波が無い状態の警告表示がされている。今はそんな事を気にしている場合ではない。ライトをオンにして、恐怖で上手く動かない足を強引に動かして奥の店に向かう。店の前まで来ると、黄色い生地の店舗用テントに赤文字で来来軒と記されていて、町中華の様だった。ガラス扉をガラガラと音を鳴らして横にスライドさせて入ると、店内も人っ子一人いない。私は警戒をしながら店内を見回す。厨房はさっきまで人いて、調理中に投げ出して何処かへ行った様な感じで、スープは沸いている。まな板には切りかけ鶏肉と中華包丁が置かれ、やはり、人がいない。私はカウンターの前に備え付けの回転丸椅子に座り、カウンターに肘を付き、ラミネート加工されたメニューを顔の真正面まで上げて眺めた。メニューはいたって普通、何もおかしな所は無い。しかし、ここで遂にストレスの限界にきて、「何なのよ・・これ、夢なら覚めてよ!」と私は誰もいない店内で叫ぶ。すると、私の耳に突然、喧噪が聞こえてくる。驚いてメニューをカウンターに置くと、目の前には何と、茶虎猫の着ぐるみの様なものを頭だけ被った調理師がいた。「お、お客さん?どうしました?」と茶虎ネコの着ぐるみ頭の調理師は私に尋ねてくる。私は思わず席から一メートルほど離れた店の壁まで立ち退く。調理師が頭に被っているのは着ぐるみだと思ったが、目は動き、耳がピクピクと動いている。あまりの出来事で、私はパクパクと口を動かすが声が出ない。そして、いつの間にか、私が座っていた席の隣にスーツを着たサラリーマン風の男性が座っていて、「ずるずる」と音を鳴らしながらラーメンすすり終わると、こちらをチラッと見る。サラリーマンは立派なとさかが生えた雄鶏の着ぐるみ頭だった。私の視界が歪み、気絶寸前になる。こんな所で気絶したら何されるか分からない。私は意識を失わない様に務め、店から走って出ると、後ろから「あっ!お客さん!」と声がした。

 

 店の外に出ると、先程までの様子とは打って変わって、ネオンが輝き、店の明かりがついて、喧噪が聞こえ、何処からか出て来たのか着ぐるみ頭の人が大勢いた。私は駅の方へ急いで走る。しかし、駅の前に着くと入り口にはシャッターが閉まっていて入れない。こんな場所には一秒もいたくなかった私は、線路に沿って、次の駅まで走って行こうと考えつき走り出す。高架下の焼き鳥屋、立ち飲み居酒屋に群がっている着ぐるみ頭の人たち。私はそれらを横目に懸命に走り抜けた。次の駅が見えてきて、ほっとした私は少し走るペースを落とし、数分後、駅前に着く。「・・・・あれ?」と私は思わず変な声を出す。なんか・・カムイ駅前に似ている?・・まあ、駅前何てどこも同じだろう。私は強引に疑念を振り払い、駅に向かうと、愕然とした。カムイ駅と表示されている。私は膝をつき、何が何だか分からなかった。嘘よ・・こんなのあり得ない。私は元来た道を引き返し、懸命に走る。すると、やはりカムイ駅に着く。「はは・・ナニコレ?、訳わからない」と私は着ぐるみ頭たちがすれ違う中で呟く。そして、「うっ!」と私の胃が痙攣して逆流を起こす前兆が起き、こんな状態でも羞恥心が働いている様で、口を押さえながら先ほどの町中華まで小走りに行き、店内に入ると店員に断りも無くトイレに駆け込む。「あれ?先ほどのお客さん?」と後ろから声がした。胃の中のものを全て吐き出した私は洗面所でうがいをし、顔を洗おうとした時、むにゅっと顔ではありえない触り心地がした。私は恐る恐る顔を洗面所の鏡で見る。そこには三毛猫の着ぐるみ頭の女子高生がいた。

 

 「あ、あ、な、なにこれ・・」と私は、もはや言葉を上手く紡げない。私は手を着ぐるみの耳に触れる。「いやっ」と思わず声が出た。感覚がしっかりある・・そして目もちゃんと機能していて、向いた方向に目も動く。最後は口を開けてみると、人だった時の倍以上の大きな口だが、外側のファンシーな着ぐるみ調と違って、口内は猫のリアルな舌と牙があった。私は頬を思いっきり、つねってみる。「いてっ」と私は言葉を漏らし、無情にも痛みしか返って来なかった。私はが絶望に打ちひしがれていると、誰かがトイレのドアを「コン、コン」とノックする。しかし、私は無視を決め込んで、数分後。「あの、この店を任されている店主だけど、外に出ませんか?」とトイレの外から話しかけられた。見た目に反して、至極まともな台詞を言う・・。今の心が弱り切った私には十分過ぎる程、優しい言葉に聞こえて、促されるままに、トイレから出た。トイレから出ると、茶虎ネコの着ぐるみ頭の調理師が立っていて、すぐ後ろの椅子に鶏の着ぐるみ頭のサラリーマンがビールを起用にくちばしで飲んでいる。「出てきてよかった!、君、この箱庭に来て間もないだろ?」と茶虎ネコの着ぐるみ頭の調理師は言う。私は力ない声で「はい・・先ほど来たばかりです」と返す。「やっぱりね!僕もこの箱庭に来た時も君みたいにパニックになったよw」と茶虎ネコの着ぐるみ頭の調理師が腕を組みながら言った。そして、「あっ、自己紹介が、まだ、だったね!、僕は秋葉敏郎、この・・」と茶虎ネコの着ぐるみ頭の調理師が信じられない名前を言い、私は自己紹介の途中で割って入る。「敏郎?、私!、優子!、畑中優子よ!」と私は名乗った。「優子ちゃん?、本当に?」と敏郎は驚く。「何だい、知り合いかい?」と今までビールを飲みながら静観していた雄鶏の着ぐるみ頭のサラリーマンが突然、私たちの会話に入る。「はい、中学から高校まで同級生でした」と敏郎は大まかな私と彼の間柄を説明。それに対して、私は若干の不服があるがまあ、いいだろう。

 

 「あっ、優子ちゃん、この人は神田さん、僕と同じ時期にこの箱庭に来たんだ」と敏郎は雄鶏の着ぐるみ頭のサラリーマンを紹介した。「初めまして、畑中優子です」と私はすかさず名乗る。「おう!、俺は神田だ、この箱庭で不動産をやっている」と神田さんも名乗った。全員の紹介が終わり、知り合いがいてほっとしたのか、吐き出して空っぽの私の胃が「ぐう」と鳴る。「ふふ、ちょっと待って、直ぐ何か作るから」と敏郎が厨房の中に入り調理を始め、私はカウンタ席に着く。敏郎が調理をしている間に私は、「箱庭って何です?」と神田さんに尋ねた。「うーん・・信じられないかもしれないが、この世界は化け猿が現実世界をモデルにして精巧に作った箱庭なんだ」と神田さんが答える。神田さんの言っている事は正しいのだろう、先ほど私が出られなかったのはそのためか。束の間の沈黙、敏郎が中華鍋でチャーハンを炒める音だけがする。私は神田さんの化け猿という言葉が引っ掛かり、「化け猿とは何です?」と再び尋ねる。「この世界の創造主だ、会えばわかるよ、明日、敏郎に連中の根城に連れて行って貰うがいい」と神田さんは言い、ビールをグビグビ飲む。「えっ?、何でそんな所に私が行かないといけないんですか?」と私は戸惑いながら言う。すると厨房から、「それはね、この世界は現実世界と同じでお金が無いと生きていけないんだよ、お金が稼ぐには仕事、仕事を斡旋するのは化け猿たちだからだよ、ハイ、お待ち!」と敏郎が出来た料理を私の前に置く。そして、「その通り」と神田さんは敏郎に同意した。「そうなんだ・・、敏郎って今まで中華屋さんをやっていたの?」と私は言いながらレンゲを取る。「うーん、色々な仕事を渡り歩いて、今の中華屋さんで落ち着いたって感じかな」と炭酸オレンジジュースの栓を開け、グラスに注ぎ私の前に出す。「ありがとう、頂きます」と私は敏郎にお礼を言って食べ始めた。

 

 お米一粒一粒が卵で完璧にコーティグされた黄金チャーハンをレンゲで一口食べる。香ばしい味と、絶妙な油加減が美味しい。次はセットのスープをレンゲですくい飲む。町中華屋さんで出されるスープと比べても遜色ない味だ。チャーハンを頼むとよくセットで付いてくるスープはラーメンのスープを流用していると思っていたが、それは勘違いと彼が調理している姿を横目で見て分かった。こんな世界に迷い込んでも学ぶ事があるものだ。そして、私はあっと言う間に全てを平らげた。「どうだい、少しは落ち着いたかい?」と神田さんが私に伺う。「はい!、少し落ち着いてきました」と私は返した後、「敏郎!有難う!凄く美味しかったよ!」と敏郎に感謝する。「何か照れるなw」と敏郎は私の感謝の言葉に照れ笑いをした。「さって、俺はねぐらに帰って明日に備えるかな」と神田さんは立ち上がり、入り口のレジで会計を済ませ、ガラス戸を横にスライドして開ける。店の外に出て振り返り、「畑中さん、俺はロータリー沿いの不動産屋にいるから、何か困った事があったら来て」と言い、手を振って去った。「ありがとうございました、おやすみなさい」と敏郎は外に出て神田さんを送り出し、入り口の近くに置いてある先が曲がっている鉄の棒の様なものを持つ。敏郎はそれの曲がった先を天井付近にある穴に入れると思いっきり引っ張る。すると、格納されたシャッター出てきて、店の入り口を閉じた。店内には敏郎と私だけになり、換気扇の音が妙に大きく聞こえた。敏郎は私の方を見て、「今日はもう遅いから、明日必要な物を買い出しに行こう!、二階に寝床があるから付いて来て」と彼は私について来るように促す。私は「あっ、うん」と短く返事をして黙って彼の跡をついて行く。階段を上がると、八畳一間の和室で机とタンスが一つづつあるシンプルな部屋だった。敏郎は押入れから布団を出して敷き、タンスから寝間着を出しタンスの横に置いてあったトートバックに入れ、「ごめん、僕のお古の寝間着だけど」とトートバックを差し出す。「気にしないで、凄く助かるよ」と私は彼に感謝して受け取った。

 

 「そう言って貰えると助かるよw、じゃあ行こうか!」と敏郎は言う。「えっ、行くって何処へ?」と私は突然の彼の言葉に困惑する。「銭湯だよw、あっ、下着類は途中で購入しようか?」と彼は笑顔で言った。「あっ、そうだね、ごめんね、何から何まで」と私は卑屈な態度をする。終始、何もできない自分が情けない・・。「気にしないで、じゃあ行こう!」と敏郎は言った。私たちは裏口から店を出て、銭湯に行くがてらコンビニに寄り、私の下着類を購入。そして、銭湯に着くと彼が料金を支払い、「じゃあ、また!」と彼は言い、「うん、またね!」と私は返し、私たちは男湯、女湯、それぞれに向かう。脱衣所には着ぐるみの動物頭の女性たちが裸になっていた。その光景は、前衛芸術にも似た、壮大な印象を受ける。私はしばしその光景に見入ってしまった。私が茫然をしている様子に他のお客さんが不審がってきたので、一番端のロッカーの前に急いで行き、コソコソと制服を脱いで浴室に向かう。浴室に入ると、私はまず洗い場の様子を伺った。実は、銭湯に向かう途中から疑問に思っていた事がある。それは、この着ぐるみの動物頭をどうしているのか?だ。洗うのか?それとも極力濡らさないようにするのか?、敏郎に聞きたかったが、何だかよくわからないが恥ずかしくて聞けなかった。だが、そんな私の思いは杞憂だった。洗い場にいる女性たちは銭湯の備え付けのシャンプーで入念に着ぐるみの動物頭を洗っている。私はその様子を見て安心して洗い場に座った。洗い場には、シャンプー着ぐるみ用と記されたものと普通のボディーソープがあり、早速、シャンプー着ぐるみ用を手に取り、着ぐるみの動物頭に掛ける。初めての作業。自分の頭だが、若干大きい頭は洗いづらい・・。私はチラッと隣を見ると、手慣れた感じで頭を洗っていた。彼女の動きを参考にして、私は苦戦しながらも洗い終わり、湯船に浸かった。はー・・気も良い・・。皮肉な話だが、人生の中で風呂に浸かって一番気持ちいと感じる。恐怖をこれでもかと味わった数時間前が遠く感じる気がした。数10分後・・、不覚にも長風呂をしてしまった・・普段は烏の行水の様に直ぐに出てしまのだが、まだここいたい・・しかし、彼が待っている・・私は気だるい体を起こし、脱衣所に向かう。脱衣所に帰ると、ある事に気が付く。そうだ・・このびちょびちょの着ぐるみ頭、どうするんだろう?。辺りを見回すと、お風呂から上がった女性たちが横一列に並んで座り、ネットで何回か見かけた、昭和のレトロなパーマ機の様なものに頭を入れて乾かしていた。なるほど!そうやって乾かすのか!。私は開いている席に座り、パーマ機の様な機会に頭を入れる。席のひじ掛けにあるスイッチを押すと、ジジと微弱な音を鳴らし、電熱線の様なものが赤く光った。頭全体が暖かに包まれて、凄く気持ちい・・、ああ、まずい・・眠くなる・・・。ピピ、ピピ、という音で私は目が覚めた。

 

 しまった!寝過ごした!。私は慌てて彼から渡された寝間着に着替えると、銭湯を飛び出す。「あっ!優子ちゃん!」と飛び出した私に声をかける者がいた。私は反射的にそちらを見ると、銭湯の前にあるベンチに腰掛けた敏郎だった。「ごっ、ごめん、待った?」と私は謝る。「待ってないよw普段と違う着ぐるみ頭で戸惑ったでしょう?」と彼は持っていた瓶のフルーツ牛乳を差し出す。「うん、凄く戸惑ったw、でも何だか楽しかったw」と私は彼の差し出したフルーツ牛乳を受け取る。フルーツ牛乳は冷たく、彼の待ってないとういう言葉は真実だった事が証明された。私たちは、フルーツ牛乳を飲みながら談笑を始め、空白の二年間を埋める様に夢中に話す。そして時折、見上げると箱庭の空は、都市近郊では絶対あり得ない天の川が見えた。私たちは来々軒に帰り、二階の寝床にある一つの布団で背中合わせの形で一緒に寝る。最初は緊張したが、疲れもあり、眠気が勝り、どうでもよくなった。意識が飛び飛びになってきた時、「ねえ、起きてる?」と彼が話しかけてくる。「なあに?」と私が返す。「母さんや父さん、どんな様子だった?」と彼が尋ね。「おばさんやおじさんはね、敏郎が行方不明になって、必死に探していたよ、私も一年間だけど一緒に探した・・」と私は言葉を選びながら答える。「そうなんだ・・元気なの?」と彼は両親の息災が気になる様だ。「多分、健康状態は問題ないと思うよ・・」と私は言い、「そう、良かった、ごめん変な事を聞いて・・おやすみ」と彼は言った。「おやすみ」と私も返す。そうだ、私たちには待っている人達がいる。帰らなければいけないんだ。この箱庭から抜け出す方法を見つけなければ。私は決意を胸に就寝した。

 

 次の日、中華料理屋は定休日で、布団、衣類など必要最低限のものを敏郎に買ってもらう。彼は色々な物を勧めてきたが、これ以上、彼に頼るのは気が引けたので辞退した。買った物を寝床に置き、着替えて、私は早速仕事を斡旋してもらうため、化け猿の根城とやらに行く。根城は、箱庭の中心にあり、近くまで行くとすぐ分かった。京都のお寺の塀みたいに、瓦屋根に白い土壁の塀が続き、堀の中にはお城の様な建物がある。「もう、ここで、いいよ」と私は付き添いで来てくれた敏郎に言う。「分かった、気を付けて、来々軒で待ってる」と彼そう言って手を振り、私の覚悟の様なものを感じたのか素直に機微を返す。私は彼を見送ると、根城の入口に向かう。塀沿いに400メートル位歩くと、立派な大きな木の門が現れ、その前には警備員服を着た、小柄な男が二人立っていた。門の前まで来ると、私はギョッとする。人だと思っていたい彼らは、顔が真っ赤で毛むくじゃら、猿そのものだ。「何の用だ、人間」と彼らの一人が私に尋ねた。「あの、仕事を斡旋して欲しいですが」と私は答える。「それなら、中に入って、案内表示に従い、仕事斡旋所に向かう様に」と猿の警備員が指示した。「ありがとうございます」と私や敏郎がこんな目に遭わせた一味に礼を言うのは屈辱的だが、ここは我慢して私は礼を言う。根城の中は、立派な日本庭園が広がり、塀で隠れて分からなかったが、お城の最上階、天守閣以外は木造で出来た役場の様な感じだ。私は指示された通り案内表示に従い仕事斡旋所に向かう。城の中はスーツを着た猿たちが忙しそうに業務に追われていて、私以外の人間も何かの手続きをしている。仕事斡旋所と書かれた部署にたどり着いた私は、「すいません、仕事を紹介してください」と言いながら入る。仕事斡旋所は、カウンターがあり、その奥にはは六人の化け猿がデスクに向かって何かの業務をしていた。

 

 サルたちは私を一瞥して反応を示さないので、「すいません!仕事を紹介をしてください」と私は再び言う。奥にいた猿の一人が反応をして、「番号札を取れ」と端にある機械を指す。私は指示された通り機会に近づく。自動整理券発券機だった。ボタンを押して、出て来た紙を取ると、「ピンポン」と音が鳴り、先ほど私に教えてくれた、猿がカウンターの前に立つ。私はカウンターの前に行き整理券を提出して椅子に座る。「年齢は?」と猿は眼鏡をかけスーツを着ていて、毛むくじゃらだが、頭周りの毛はオールバックの様になっていて、インテリな雰囲気だ。「17です」と私は答える。すると「17?、子供じゃないか!、猿童子様は何を考えていらっしゃる」とインテリメガネの猿は憤慨をしながらカウンタに備えてある端末を操作する。人間の私の前で堂々と批判、化け猿たちは一枚岩じゃない?、それに猿童子ってのが化け猿たちを束ねている?。新たな情報に私があれやこれやと思考中に「おい!」とインテリメガネの化け猿が私に呼び掛けた。私は反射的に「はい!」と返事をして、背筋を伸ばす。「子供のお前に斡旋できる仕事はこれだけだ」とインテリメガネの化け猿が紙を私に差し出す。紙には、コンビニ店員、銭湯の従業員、喫茶店のウエィター、と記されていた。「どれにするんだ?」とインテリメガネの猿が私に選択を迫る。どれにしよう?、でも、どれ選んでも同じような気がする・・よし!。私は考えがまとまり、「喫茶店のウエィターにします」と答えた。一度やってみたかったんだw。「そうか、分かった、先方に連絡をしておくから、早速仕事場に行け」とインテリメガネの化け猿は端末を操作しながらこちらを一度も見ず、プリントアウトされた紙を私に渡した。受け取った紙を見ながら仕事斡旋所を出た時、「お嬢ちゃん!」と誰かが私に声をかける。

 

 声のする方に私は向くと、派手目のスーツ姿の化け猿がいやらしい目付で私見ていた。「何ですか?」と私は尋ねる。「喫茶店のウエィターなんて、稼ぎはたかが知れているよw、お嬢さんならさ、もっと稼げる仕事が有るから紹介しようか?」といかにも詐欺師みたいな、軽薄な雰囲気を出しながら、派手目のスーツ姿の化け猿は言う。「け、結構です」と私はこの場所を立ち去ろうとした時、進路をふさがれ、「おい、おい、人間の癖に俺の親切心を踏みにじる気かよ?」と派手目のスーツ姿の化け猿が尚も絡んでくる。「止めて下さい」と私は拒否した時、「おい!!、何をやっている!ルール違反だろ!」とインテリメガネの化け猿が来てくれた。「落ち着けよ、これはほんの冗談だよ、な?」と派手目のスーツ姿の化け猿が私に同意を求める。それに対して、「・・・」と私は無言で返す。「ちっ!」と派手目のスーツ姿の化け猿は舌打ちして去った。「ありがとうございます」と私は心からの礼を言う。「礼などいらん、とっとと、仕事場に行け」とインテリメガネの化け猿は言い捨てて、仕事斡旋所に帰った。私は足早に化け猿の根城から出て、紹介された喫茶店に向かう。喫茶店は駅前のローターリー沿いの店で駅に一番近い店だった。早速、喫茶店の店長に挨拶をして、本格的に働くのは明日からになり、来々軒に戻る。「どうだった?」と二階の寝床に帰るなり敏郎が私に尋ねた。「うん、結構色々あって疲れた・・化け猿っていうからどんなものかって思ったけど、凄く人間っぽいね」と今日、経験した事の素直な感想を私は伝える。「そうだね、僕も同じ感想だよ、でもね猿童子には気を付けて、そいつは他の化け猿と違って、不思議な力があるから」と彼は何かある感じで語った。「猿童子と何かあったの?」と私は彼の態度が気になり、聞き出そうと試みる。少し躊躇しながらも「・・・僕や神田さんはね、この箱庭に拉致された、最初のグループなんだよ」と彼は重い口を開く。「えっ・・最初って事は、この箱庭できて間もないの?」と私は彼の口から出た信じがたい言葉に驚く。「うん、化け猿たちの箱庭の運用は2年目だよ」と彼は答えた。

 

 「話しを戻すね、拉致されて間もない僕たちは、まだ、反抗する気概があったんだ」と敏郎は話始め、そして、「化け猿たちに反旗を翻して、この箱庭から脱出を試みたんだよ」と言う。「でもね・・反抗した人たちを猿童子が不思議た力を使って見せしめに、次々と物や箱庭の公共物に変えられてね・・それを目の当たりにした僕たちの反抗心は見事にへし折られたよ・・」と過去の苦い記憶が蘇ったのか彼の茶トラの着ぐるみの眉間にしわを寄せた。「そうなんだ・・何かごめんね」と無理やり聞き出した事に私は謝罪をした。「いいよ、いつかは言わないといけない事だし」と彼は言う。「じゃあ!、銭湯に行こうよ!」と私は、暗くなった雰囲気を打ち壊すように明るく振舞い、「うん!」と彼もそれに同調した。それから、一ヶ月ぐらいは慣れない労働で体調を崩したりしたが、二ヶ月目に入ると、人間とは環境に慣れるものらしく、すこぶる快調な毎日。労働に勤しみ、銭湯に行って癒され、寝る。そんな日々が三ヶ月目に突入するかと思われたが、私たちに救世主たちが現れた。私と敏郎が仕事が終わり、いつもの様に銭湯に向かい、それぞれの脱衣所に向かうため別れ、脱衣所で私がいつものロッカーを開けた時、それは起きた。すぽん、と何者かがロッカーから飛び出し、私は尻もちをつき、「きゃあ!」と声を挙げる。「ここは何処にゃあ?」と何者かが私に馬乗りになって尋ねてきた。私は目を開け馬乗りになっている人物を確かめると、黒髪のツインテールでメイド服、頭にコスプレの衣装の様な三毛柄の耳、そして尻尾が生えている。以前の私だったらただのコスプレと一笑に付するだろう。だが、今の私にはこの気配と雰囲気には、思い当たる節があり、化け猿と恐らくだが近しい存在だと感じた。「は、箱庭です」と私は猫耳メイドに素直に答える。すると、「成功にゃあ!、所長!大丈夫にゃあ!」と猫耳メイドが言い、「あら、あら、ミケ、ご苦労様」とロッカーからにゅるっと赤いハイヒールを履いたスラリと長い脚がロッカーから出て来きた。

 

 それを目撃した私はお尻を引きずりながら、後ずさりし、脱衣所にいた女性たちも驚いて、私の方へ一斉に集まり、怯えた眼でロッカーを注目。ハイヒールが床に着くと、器用に上半身を反って、陸上の高跳び選手がバーを飛び越える時のポーズの様な姿勢でロッカーから出て来た。それから、すっと状態を起こす。猫メイドの次に出て来た、黒いタイトスカートに白いシャツ、髪を束ねた女性に私たちは息を飲んだ。超常的というか、美しさも相まって、只物じゃない感じがする。「あら、あら、お人形頭がいっぱいw」と絶世の麗人は私たちの状態を何の躊躇も無く茶化す。「あ、あ、こちらミケにゃあ!箱庭の潜入に成功にゃあ、どうぞにゃあ」とミケと名乗った猫耳メイドはスマホをスピーカーに切り替えて誰かと会話し始めた。「こちら、クロベエです、 別動隊による箱庭のシステム掌握はほぼ完了しやした!、内通者がそちらに向かっているので、後は姐さん、お願いしやす」とスマホ越しに渋い何者かの声。「了解にゃあ!あれ?志村はどうしたにゃあ?」とミケと呼ばれた猫耳メイドがスマホ先のクロベエと言われた者に尋ねた。「志村さんですか?先ほどそちらに向かいましたよ?」と渋い声が返した時、「うっ、何だよこれ、ロッカーか?」とロッカーから男の声がする。そして、脱衣所の私を含めた女性は「きゃーーー!!」と叫ぶ。「あ、あ、ごめんなさい!」とカーゴパンツにシャツ姿の男は必至に謝り、目を自らの手で塞ぐ。しかし、直後に男の様子が変になる。「あれ?、所長、ミケ、なんだか、顔を触ると感触が変なんだ」とカーゴパンツとシャツ姿の男は困惑していた。「にゃはw、豚がいるにゃあw」とミケといわれた猫耳メイドが意地悪そうな顔をして言う。「はあ?豚じゃないよ!志村だよ!」とカーゴパンツとシャツ姿の男は名乗る。「あら、あら、志村君、鏡を見た方が良さそうよw」と所長と言われた絶世の麗人は相変わらず茶化す。「鏡?あ、あ、ぶひーー」と、志村と名乗った男は、自分の頭が豚の着ぐるみ頭になっていてパニック。まあ、それはそうだろう、私もそうだった・・。「それでは、茶番はこれぐらいにして、どなたか状況を説明してくれたら助かるのだけども」と所長と言われた絶世の麗人が言った。

 

 私たち、脱衣所の女性はお互いの顔を見合って、まごつく。しかし、こんな千載一遇を逃す事は出来ない。私は意を決して、「畑中優子という者です」と私はまず名乗る。「ミケにゃん!」とポージングしながら猫耳メイドのミケさんは名乗り返し、続けて「所長よ!」と絶世の麗人である所長さんも名乗り、最後に「志村です・・」とカーゴパンツでシャツ姿の豚の着ぐるみ頭の男がこの世の不幸を一身に受けた様な絶望した様子で名乗った。それから、私は自分が体験した事、知っている事、そして、知らない事は、周りの脱衣所にいた女性たちが補足して、所長さんたちに伝えた。「あら、あら、ご丁寧にありがとう、助かるわ」と所長さんは私たちに感謝の意を伝える。「内通者からリークされた情報と概ね符号しているにゃあ」とミケさんは言い、「これで情報の信憑性は増しやしたね、あっしは次の行動に移りやす、失礼します」とミケさんのスマホから聞こえ、渋い声の持ち主は言った後、通話を切った。そして、「おほん」と誰かが咳払いをする。私たちは一斉にそちらを見ると、インテリメガネの化け猿がいた。「あっ・・」と私は思わず声を上げる。そんな私を一瞥した後、「お初お目にかかります、猿田というものです」とインテリメガネの化け猿が名乗った。「あら、あら、これはご丁寧に、所長よw、あなたが内通者?」と所長さんが確認し、「左様で御座います、こちらは準備は整っています」と猿田は肯定と何かの計画が進行中を示唆する。「あら、あら、それは望外(ぼうがい)、では、私たちは正門から堂々と行きましょう」と所長さんは含んだ笑みをした。「本当に正門から?、なんなら、私どもの手引きで、裏門から行けますが?」と猿田は不安そうに提案。「お気遣いは無用よw、正義は堂々と真っ正面よ!」と所長さんは自信たっぷりで提案を辞退をする。「承知いたしました、私どもはその態(てい)で動かさせて頂きます、それでは失礼します」と猿田は一礼して足早に去った。

 

 「優子ちゃん!、何かあった?」と敏郎が血相変えて女脱衣所に乗り込んできた。薄い壁一枚に隔たれた脱衣所、女脱衣所の何かあれば当然、異常があれば気が付く。敏郎の登場で、再び、「きゃーー!」と叫び声が上がる。敏郎は慌てて後ろを向き「優子ちゃん!、その人たちはだれ?」と敏郎は私を心配しつつ正体不明な三人組の事を聞く。「この人たちはね、外の世界から、私たちを助けに来たんだよ!」と私はテンション高めに敏郎に伝えた。「えっ!?、本当に!」と敏郎は思わずこちらを見る。「きゃーー!」と再度、女性たちに叫ばれ、再び慌てて後ろを向く。「あら、あら、可愛い男の子w、優子ちゃんの彼氏?」と所長さんは何の躊躇なく私に尋ねてきた。「彼氏っていうか・・同級生です」と私はいつかの仕返しを敏郎にする。「えっ?、僕たちは」と敏郎はまた反射的に振り向きそうになり、寸前で止め、会話を中断。「あの、明日が決行日なら、今日の夜は私が寝泊まりしている所で休んでください、敏郎!いいよね?」と私は所長さん達に提案し、敏郎に許可を求める。「あっ、うん、全然良いよ!」と敏郎が快諾した。「あら、あら、これは僥倖、お言葉に甘えさせてもらうわw」と所長さんは私の提案に感謝。そして、「所長、時間があまったにゃあ、これからどうするにゃあ?」とミケさんが所長に次の行動の指示を仰ぐ。「そうね・・本番は明日だし・・そうだ!銭湯に折角いるんだから、汗を流しましょう!」と所長さんは言い、「賛成にゃあ!」とミケさんは同意して、「久しぶりの大きい風呂だ!」と志村さんはしゃいだ。「じゃあ、僕は先に帰って、夕飯の支度をするよ」と敏郎は言い、「ごめん、帰ったら私も手伝うよ」と私は返す。敏郎は来々軒に一足早く帰り、私は彼らが銭湯を出るまで待機した。

 

 その後、私たちはワイワイと楽しく、夕食に出て来た中華料理に舌鼓をしていた。三人の食欲は旺盛で、信じられない量をあっという間に平らげる。「ふー美味かったにゃあ♪」とミケさんは至福の顔。「あー、食った、食った、これだけ食いだめすれば暫くは大丈夫だろうw」と志村さんは、謎のサバイバル理論を展開。「敏郎君w、君、料理の腕が良いのね、お姉さん、お店出すお金出そうか?」と所長さんは敏郎の手を握り誘惑をする。敏郎がデレデレしているのは気に食わないが、今は明日の事を聞くことが優先だ。「所長さん、明日の事ですが、正面から突入してどうするんですか?」と私は所長さんに尋ねた。「作戦?、そんなもの無いわよw」と省庁さんはあっけらかんと言う。そして、「突撃して、バチボコにゃあ!」とミケさんが更に無計画さを追加。「ちょっと待って下さい!、猿田さんもあなた達に賭けているんですよ!!」と私は怒気を強め抗議した。「いい?、優子ちゃん、優れた策士は行動した時には、もう、すべき事を全てしているのよw、だから信じて」と所長さんは私の手を握り、じーと見つめて来る。本当か?、言っちゃ悪いんだけど、この三人は、出たとこ勝負な行動ばかりな気がする。。とわ言え、この人たちしか頼る事が出来ない以上、信じるしかない。「分かりました・・信じます、私たちを解放してください」と私は表面上は信じている事を伝える。「あら、あら、信じてくれるのね、涙ちょちょ切れちゃうわw、みんな!、明日は早いんだからもう寝るわよ!」と所長は茶化す言葉で返し、就寝の号令をかけた。「はーい、了解にゃあ!」とミケさんはいい返事で返し、「分かりました、寝るか!」と志村さんは同意した。この三人の関係は、どういう関係なのだろうか?。

 

 翌日、私たちは、化け猿たちの根城の正門の前に向かう。私は箱庭代表の立会人として参加した。正門前に着くと警備員の化け猿たちが何か様子がおかしい。私たちの姿を確認すると「な、何だ!お前ら?」と化け猿、警備員がが凄く焦っている。「あら、あら、お忙しそうねw、ゆっっくり休みなさいw」と所長さんのお尻の辺りから、幾多の狐の様な尻尾が出現して、まるで津波の様にうねり、化け猿警備員たちに押し寄せた。「うっ、うわー!」と化け猿警備員たちはなすすべも無く叫び声をあげ、尻尾の中に飲み込まれ、尻尾の塊はそのまま、正門を吹き飛ばす。正門が吹き飛んで、根城の中が見えるようになると、中では化け猿同士が殴り合いの乱闘をしていた。よく見ると、ハチマキをしていない化け猿としている化け猿がいる。乱闘をしていた、一人の化け猿が私たちに気が付くと「お前ら!、他の化け者を介入させているのか?、この裏切り者!」とハチマキをしてない化け猿は乱闘相手に言い、「うるさい!、お前らのやっている事を棚に上げて、裏切り者もあるか!」とハチマキをした乱闘相手は負けじと返した。「皆さん!、猿童子天守閣にいます!、よろしくお願いします!」と声がする。私はそちらを見ると、乱闘中のハチマキをした猿田さんがいた。「あら、あら、ご苦労様w、さあ!天守閣まで行きましょう!」と所長さんは、ハイヒールなのに凄いスピードで先陣を切る。人間である私と志村さんは、二人の後を懸命に追う。天守閣に行く途中、何度か化け猿たちが行く手を阻んだが、ミケさんが露払いとばかりに、目にも止まらぬ動きで、化け猿たちを蹴散らし、進路を確保した。

 

 そして、天守閣に着く。天守閣には、お坊さんの袈裟を着た毛が白い化け猿がいた。「あら、あら、お久しぶりね猿童子」と所長さんは言う。どうやら、この白い毛の化け猿が猿童子の様だ。「おや、おや、ご無沙汰してます、所長殿」と猿童子は言った。二人は知り合い・・?。「随分面白い事をしてくれたみたいね」と所長さんは猿童子に言い、「面白い・・私は極めて真面目に事を遂行しているのですよ、それを面白いと言うのは心外ですな」と猿童子は余裕な笑みを浮かべ言う。「あら、あら、それでは目的は何かしら?」と所長は猿童子の真意を尋ねた。「ふふ、あえて言うなら美、この箱庭を見てどう思いました?、動物の着ぐるみ頭の人間がうろつく、現実と寸分たがわぬ街、滑稽さと、非現実が合わさって最高に美しいと思いませんか?」と愉悦に浸った顔で猿童子は語った。「ふ、ふざけないでよ!!、あんたの芸術活動に私たちは拉致されたの?、冗談じゃないわ!!」と私は二人の会話に割って入って激昂する。そして、「よく言ったにゃあ!!、優子!、こんな奴、あたいがバチボコにしてやるにゃあ!」とミケさんが猿童子に襲い掛かろうとした時「待ちなさい!」と所長さんが止め、更に、「あら、あら、猿知恵が回るみたいねw」と不敵な笑みを浮かべ言う。「おや、おや、さすが所長!、御察しがいいですなw、私に手を挙げた瞬間、人間どもが死ぬ様に術を仕込んでいますのでw」と猿童子はいやらしい笑みを浮かべた。「ぐぬぬぬぬ、どうするにゃあ!ここまで来て」とミケさんが苛立ちながら所長に尋ねる。「どうしましょうw」と所長さんはあっさり投げやりな言葉を出す。おい、本当にどうなるんだ。「おや、おや、お困りの様ですなw、ここは提案があるのですが」と以外にも猿童子が提案を持ちかけて来た。

 

 「あら、あら、何かしら?」と所長さんは提案の中身を催促した。「悲しい事ですが、同胞のほとんどが私の美に理解をしていませんでした、つきましては箱庭は撤収をしようと思います、ですが、私にも面子というものがあります、勝負をしませんか?」と猿童子は言った。「勝負?なにかしら?」と所長さんは聞き返す。「そうですな・・お互い、傷つけ合う不毛な勝負でなく、早食い勝負をしましょうw」と猿童子は提案。「早食い勝負?何にゃあそれ?」とミケさんが困惑して、「えっ、早食い?それなら俺でも活躍できそうだなw」とここで初めて志村さんが喋る。この人の危機管理能力は凄い、ヤバくなったら霧の様に存在が霧散した。「そうねw、面白そうw、良いでしょう!、その勝負請けます」と所長さんは快諾し、「話が分かる方で助かります、それでは、明後日の正午、駅前のロータリーで勝負しましょう」と猿童子は言い終わると、天守閣から飛び降り、身軽に屋根を伝い、地上まであっという間に降りた。「なっ!、何て身軽にゃあ!」とミケさんは猿童子の動きに関心をする。「じゃあ、後始末をして来々軒の帰りましょう」と所長は言い、ミケと共に、猿童子派の化け猿たちを無力化するため、奔走をした。

 

 そして、試合当日の正午。駅前ロータリーに、大勢の動物の着ぐるみ頭の人間と、猿田さんを始めとした、反猿童子派の化け猿たちで賑わっていた。ローターリーの真ん中にはいつの間にか舞台が出来上がっていて、猿童子が待っている。所長を先頭に、ミケと志村さんが試合舞台に上がり立つ。私はセコンド席で見守る事にした。「ハイ!始まってまいりました!箱庭の命運がかかった早食い対決!、司会、進行はクロベエが務めさせて頂きます!」と黒猫が流ちょうに話している。以前にミケさんのスマホ越しに聞こえた渋い声だ。まさかネコだったとは・・。「まずはルール説明をしたいと思います、出された品を相手より早く完食した者が勝ちです、三試合して、先に二本、勝利するとチームの勝ちが確定です」とクロベエが言う。「なお、所長様が勝つと、箱庭の権利が猿童子様から献上され、猿童子様が勝つと、志村さんが献上されます」とクロベエが言った瞬間、「おい!何だよそれ!聞いてないぞ!何で俺なんだよ!」と志村さんが司会者のクロベエさんに抗議した。「あら、あら、志村君、わがまま言ったらダメよ、仕方がいのよ、猿童子があなたを見た時、美を感じたんだってw」と所長さんは志村さんを窘める(たしなめる)。「で、でも」と尚も食い下がる志村さんに対して、「勝てば良いのよ、勝てばw」と所長さんは冷酷に志村さんの抗議を却下した。

 

 「それでは、早食い対決!第一試合を開始したいと思います!所長チームから出る最初の選手は、黒髪ツインテール猫耳メイド姿に騙されるな!茶トラ4兄妹の母親、ミ・ケ!」と猫の背と同じぐらいに調節されたマイクスタンドに固定されたマイクに向かいクロベエさんが言う。その瞬間、ギャラリーの声援が大きくなり、ミケさんが舞台に立つ。「猿童子チームから最初の選手は、下剋上上等、いつも狙っています、あなたの背中、野心家の猿吉!」とクロベエさんがアナウンスする。さっきと打って変わって、ギャラリーからのブーイングの嵐が起きた。舞台に上がった猿吉は、黒いスーツ姿で目つきが悪く、何かを企んでいる様な化け猿だった。二人は座席に座ると、反猿童子派の化け猿が料理を運んで来る。「さあ、最初のメニューは、チャーハンだ!、先に平らげたら勝利、始め!」とクロベエさんが試合の開始を合図。ミケはレンゲを取り、早速一口。そこで志村さんが異変に気が付く。「何だ?、相手の猿吉が全く食べようともしていない?」と志村さんが言う。確かに、早食い勝負なのにそれはおかしい。そして、ミケさんの様子がおかしくなった。レンゲを口に入れたまま固まっているのだ。「おい!!ミケどうした?」と志村さんが声をかける。すると、「にゃ・・にゃっはーーーー!」とミケさんが口から炎を吐き出し、二メートルぐらいの高さの火柱を上空に作った。「おーっと、立った、立った、クララじゃなくて、火柱が立った!」とクロベエさんが中々うまい事を言う。ミケさんは白目をむき、両手をぷらーんと垂らし、椅子にもたれかかり気絶。「こ、これは、KOだ!ミケ選手のKOにより、猿吉選手の勝ちです!!」とクロベエさんが宣言する。「何だよ!、早食いでKOって、おかしいだろ!」と志村さんが抗議。しかし、「ルール上何も問題はありません、メニューをちゃんと見ました?」とクロベエさんが言い、試合に出て来るメニュー表を咥えながら私たちのセコンド席までやって来る。志村さんがクロベエさんの口から乱暴に奪い取ると、「な、何だこりゃ!?」と驚愕の表情をした。志村さんが私たちのメニュー表を見せる。メニューには米粒よりさらに小さい文字で超激辛と記された横に普通の大きさの文字で、それぞれチャーハン、餃子、麻婆豆腐と記されていた。「あら、あら、やられたわねw」と所長は呑気に言う。確かに、向こうが早食いの料理を指定する取り決めだけど・・これは卑怯だ。志村さんは舞台に上がり気絶しているミケさんを背負い、セコンド席まで来てゆっくりと下ろし寝かす。ミケさんは、白目をむいて、時より、ピック、ピックと痙攣をしていた。所長さんはミケさんの頬に付いていた、米粒を摘み、それを口に入れる。少し、険しい表情をし、「これは、火炎ワサビね、徳川家康がワサビの品種改良中に偶然生み出された代物ね」と所長さんは言う。

 

 「所長!このままでは、まずいです!あいつの玩具になりたくないんです!、所長なら何か手があるでしょう?」と志村さんは所長さんに必死に懇願した。「うーん、でも、危ないわ」と所長は少し躊躇する。「あいつの玩具になるぐらいなら死んだ方がましです!」と志村さんの目は完全に恐怖で染まっている。「死んだ方がまし?、本当に?」と所長さんが怪しい笑みをし始め、「あっ・・やっぱり嘘ですw、言葉のあやですよw」と志村さんは愛想笑いし誤魔化した瞬間、ビックと志村さんの体が揺れ、まるでロボットの様に、つま先をぴんと伸ばし、無言で舞台に向かう。遠目ではっきりとは言えないが、志村さんの目に意志の光が無い。「さあ、盛り上がりって参りました!、2回戦、所長チームからは、おいおい、どういう事だ!人間なのに化け者と行動を共にしている、志村!」とクロベエさんが自分のアナウンスに酔いしれて言う。どうやら、この黒猫、司会・進行が好きな様だ。ギャラリーの声援が志村さんに送られたが、志村さんはまるで無反応。「続いて、猿童子チームからは、脅し、恐喝はお手のもの、生粋のドチンピラ!、猿彦!」とクロベエさんがこぶしをきかせて言う。根城で私に絡んだチンピラ化け猿だ。ホスト風な格好で薄ら笑みをしながら舞台に立つ。そして、先程と同様にブーイングの嵐の中、「優子ちゃん!」とセコンドコーナーの後ろに出来ている黒山の人だかりの中から声がした。よく見ると、敏朗がいてこっちに来ようとしている。人だかりををかき分けて、ようやく辿り着くと「これは?」と敏朗は失神しているミケを見て驚く。「あのね・・料理に火炎ワサビっていう、激辛なものが入っていたの・・」と私は少し遠慮がちに言う。「バカな!!、僕はそんなもの入れてないぞ!!」と敏朗は激昂した。理由は分からないが、今回の早食い対決の料理を作る料理人に敏朗が選ばれた。猿童子が指名したらしい。私たちも身内だったため、それを了承したのだ。「料理を作っている時、誰か居なかった?」と私は敏朗に尋ねる。「えっ・・神田さん以外誰も居なかったよ」と答えて、「よう、ご両人、試合の状況はどうだい?」と神田さんが割って入って来た。「神田さん?、どこにいたんですか?」と敏朗が驚く。「悪い、トイレ行ってたw」と神田さんが言う。

 

 「第二回戦!、早食いメニューは餃子だ!、一回戦と同様に激辛料理、それでは始め!!」とクロベエさんが開始の合図をする。猿彦は全く動かなかった。恐らく、すでに一勝を手にしていて、相手は人間、化け者が一口食うだけで失神する辛さの料理、危険を冒してまで食べる必要な無い、黙って座って居れば良いだけだと判断したようだ。だが、直ぐに猿彦と思惑は外れる。志村さんが何の躊躇なく、超激辛餃子を貪り食っているのだ。「おーと!!、これはどうした事か?。志村選手、まるで豚の様に激辛餃子を食って入る!、いや、これは豚じゃない!豚以外の何かだ!」とクロベエさんも驚きながら解説。程なくして、餃子を平らげる志村さん。しかし、それでも終わらない。志村さんは餃子を平らげると、辺りを見回し、猿彦の餃子を見つける。志村さんは猿彦との元へ駆けつけ、猿彦の餃子も貪り始めた。志村さんの行いに、猿彦は口をあんぐり開けて、完全に固まる。志村さんは、猿彦の餃子を平らげ、「凄い!!志村選手!、猿彦選手の餃子も平らげたぞ!!、これは志村選手KO勝ちです!!」とクロベエさんが志村さんの勝利宣言をした。「うっおおお!!」とギャラリーは盛り上がる。猿彦はとぼとぼ帰り、志村さんは相変わらず意思のない目をしながら、指先をぴんと伸ばし、軍隊の行進の様に帰ってきた。「あら、あら、志村君、ご苦労様でした」と所長さんは志村さんを労い、パチンと指を鳴らす。志村さんは、はっとして、辺りを見回し、「あれ、俺は何を?」と言葉を漏らしたのち、顔が急に青くなり口を押え、「ぶっ、ぶっ、ぶっひーー!」と口から火柱を真横に吐く。火柱は幸い誰もいな方向に行き事なきを得た。志村さんは白目を向き、舌をだらーんとだらしなく、口からはみ出す。それを見た私は異変に気が付いた。普通は気絶していても胸の辺りが呼吸で上下する動きがあるのだが志村さんにはそれが無い。「所長さん!!、志村さん呼吸をしていません!!」と私は血相を変えて言う。「え゛」と所長さんがここで初めて焦った顔をした。所長さんは、志村さんの元へ行き、指先を丁度心臓辺りにつけて、「ばちっ」と音共に電気のスパークの様な光を放つ。「がはっ!」と志村さんが反応して、すー、すーと寝息を立てる。「ふーこれで良し!」と所長さんは満面笑顔で私たちに向けた。

 

 志村さん・・あなたのつるんでいるこの人はとんでもないない人ですよ・・。私たちが所長の行いにドン引きをしていると「さあ、最後の三回戦、どっちも勝っても恨みっこ無しだ!、所長チームからは、年齢不詳、由来も不明、所長と言う名前以外何もかも謎の麗人、所長だ!!」とクロベエさんがアナウンス。呼ばれた所長は舞台に上がりギャラリーに手を振る。ギャラリーは大盛り上がりで、所長にラブコールをしている有様。敏郎もいやらしい眼つきをしていて、だらしない顔をしていた。私はイラっとして思わず彼の太ももをつねる。「痛っ」と敏郎がはっとなり、私を見た。私は睨み、敏郎は申し訳なさそうな顔。ギャラリーが「おおおお!!」と歓声が上がる。私たちは舞台を見ると所長の顔が妖艶な狐になっていた。「おっと!、これは凄い、所長選手、顔が狐になったぞ!」とクロベエさんは更にギャラリーを煽る。「えー、それでは猿童子チームからは、この世の美はすべて私の物!、どんなものでも美に変えましょう!、猿童子だ!!」とクロベエさんが言う、ギャラリーからは今まで以上にブーイングの嵐が起きた。二人は座席に座り、お互いに一瞥して正面を見る。そして、奥から反猿童子派の化け猿が現われ、ワゴンに乗せて料理をそれぞれの机に置く。「さあ、三回戦目の料理は、麻婆豆腐だ!!、素の状態でも辛いこの料理、当然、超激辛だ!!、始め!!」とクロベエさんが開始を合図。開始を確認した所長さんは立ち上がり、口を大きく空けて、麻婆豆腐が入っている大皿を傾けていっきに一飲み。流石の司会のクロベエさんもポカーンとしてしまう。「ぷはっw、久しぶりの火炎ワサビ効くわねw」と炎を人吹きして、所長は余裕の笑みを猿童子に向ける。猿童子は予想外の事に固まり、更に所長の話は続き、「昔ね火炎ワサビを薬味にして、猿をよく食ったものよw、何だか久しぶりに猿が食いたくなったわ」と大きな口から涎が垂れた。

 

 童子は恐怖におののき、失禁をしてしまう。「何と!!秒殺だ!!流石所長!!これで所長チームの勝ちが確定!、この箱庭は所長の物だ!!」とクロベエさんが私たちの勝利宣言をした。そして、クロベエさんと所長さんが一緒に舞台から降りてきて、ギャラリーを引きつれ私たちの元へ戻る。「やりましたね!これで私たちは帰れるんですか?」と私はギャラリーに囲まれた中、所長さんを満面の笑顔で出向えた。「あら、あら、まだ気が早いわよw」と所長はきつね顔から元の麗人に戻る。私と敏郎が顔を見合い、尋ねようとした時、「所長!、箱庭のシステムを完全に掌握しやした、拉致された人たちの身元も特定、本物の猿童子はこいつですぜ」とクロベエさんがさっきとは違う口調で言い、所長の肩に飛び乗り、何処からか取り出したスマホを所長に見せた。「あら、あら、ご苦労様!、後で別動隊のあなた達にはご褒美を奮発するわw」と所長は言い、じろりとある方向を見つめる。その先には神田さんがいた。「おい、おい、何だいw、あんたみたいな美人に見つめられたら惚れてしまうだろうw」と神田さんが茶化す。「えっ・・、本物?、じゃあ、今まで猿童子と名乗っていたのは偽物ですか?神田さんは人間ですよ!」と私は所長に尋ねる。「そう、偽物よ、この箱庭はね、動物の着ぐるみ頭を着た人間と、それを管理する化け猿を含めての作品なの、この男はそれを見て悦に入っていたのよ」と所長は答えた。「やれ、やれ、バレちまったかw」と神田さんは開き直る様な態度をして「神田さん!!、嘘ですよね?」と敏郎が神田さんに詰め寄る。「嘘じゃねぇよw、俺が猿童子さ!」と神田さんは認め敏朗を振り払い、名乗り上げ雄鶏の着ぐるみの動物頭を手に掛けた。すると、すぽっと取れて、オールバックで三十位の顔が出て来る。人間・・?どういう事?。ギャラリーの化け猿や拉致された動物の着ぐるみ頭の人たちは、様々な考えがよぎり声をなくす。大勢いる空間にシーンとした静寂が支配して、「俺は謝らないぞw、化け猿ども!、お前らは人の世、化け者の世、どちらからもあぶれていた、そんなお前らに仕事を与えてやったんだ感謝しろw、そして、人のお前ら、俺はな無作為に拉致していたんじゃないぞ、日常に生きがいを無くし、または退屈をしていた人間を選んで拉致したんだ、非現実が味わえて楽しかったろう!」と猿童子の大きい声が響く。猿童子の言葉に一理あるのか、ギャラリーは批判、反論も無く、沈黙した。「あら、あら、だからと言って、閉鎖された空間に閉じ込めるのは如何な物かしら?」と静観していた所長が口を開く。「それは、俺に対しての報酬と受け取ってくれ、何かやるにしても報酬が無ければ人は動けないのさ!」と猿童子は自分の行いにまるで顧みない。「あら、あら、話をしても無駄みたいねw、あなたを拘束するわ」と所長はお尻の辺りから狐の様な大きい尻尾を出して、目にも止まらぬ速さで、猿童子を尻尾で巻き取り手元に引き寄せる。そして、クロベエさんは手錠の様なもので手足を拘束した。

 

 「あら、あら、これで一件落着ね!、クロベエ、後始末はよろしくね!」と所長はクロベエさんに後始末を託す。「承知しやした、後の事はあっしが責任もってやりやす」とクロベエさんは承諾する。「優子ちゃん、敏郎君、後の事はこのクロベエの指示を聞いてね!、決して悪う様にしないから、じゃあね!」と所長は言い、猿童子を尻尾で巻き取った体制を維持しつつ、更に新たな尻尾を出現させて気絶しているミケさんと志村さんを尻尾で巻き取て、駅の方へ向かった。「さて、あっしはクロベエと申す化け者です、これから皆さんを元の世界に戻すお手伝いをいたしやす、化け猿の根城を使って、様々な手続き並びに、軽い事情聴取をしますので、あっし共の指示に従って下せぇ」とクロベエさんが言い、何処からともかく、黒猫とサビネコの大群が出て来た。クロベエたちは化け猿の根城に向かい、集まっていたギャラリーはそれぞれの居場所に帰って私たちだけが取り残された。「はは、間抜けだろ?、拉致した張本人と一緒に二年間過ごしていたなんて・・」と敏郎は凄く落ち込んでいる。「仕方ないよ、分かる訳ないじゃない」と私は彼を励ます。「そういってももらえると助かるよ・・これで帰れるんだな・・何か実感が沸かないな・・」と何だか凄く疲れた様子で敏郎は来々軒に向かい、私もそれに続く。結局、猿童子が何故人間なのか分からずじまいになった。それからは、クロベエさんさん達の指示に従い、書類の手続き、事情聴取を終えると、動物の着ぐるみ頭は戻り、私たちを含めた拉致された人たちは深夜に同じ電車に乗せられて、普通の駅に到着すると待っていた警察の方たちに保護される。私たちの行方不明はどうやったのか知らないが、家出と処理されて、私や敏郎はこっぴどく怒られた。家出人が集団で帰ってきた事がネットで話題になり、陰謀論者が騒いでいたが、半年もすると、誰も口にしなくなった。私は長期に渡って学校に行ってなかったので、補修の毎日を過ごし何とか卒業が出来そうだ。敏郎は退学扱いになっていたので、夜間高校に通いながら、中華料理屋で働いている。そして、ある日、定期券と共に通帳が私宛に送られてきた。所長からのお手紙が添えてあり、今回の化け者による被害の補償と箱庭での労働に対するお支払いする旨が書かれ、続いて箱庭を関しての事が書かれている。箱庭は残す方針で一緒に送付された定期券を駅で使えば箱庭に行けるという内容が書かれていていた。私は早速通帳を見ると、見た事が無い数字が記されていて興奮し、敏郎に連絡したら、やはり同じようなものが届いている様だ。私たちは話し合い、再び箱庭に行く事にした。駅で例の定期券を使うと、カムイ駅へ行く各駅列車がホームに来て、それに乗り込み、10分後位で、カムイ駅に着き降り、駅前のロータリーに二人で立つ。箱庭は依然と違って活気には溢れていて、人や化け者が練り歩いていた。箱庭での地獄の様な体験は、今思うと、楽しかったような気がして、不思議な感じだ。最も、敏郎は二年もの長い間ここで過ごしたので、私とは違う感想を抱いているの違いない。「ねえ、どんな感じ?」と私は敏郎に尋ねる。「うん、変な話、良い思い出だった気がする・・勿論、同じ目にはもう二度と会いたくないけど」と敏郎は意外な答えを出す。「そうだ、私たち結局デート一度もしてないじゃんw」と私は言う。「そうだねw、付き合ったのに一度もしてないねw、じゃあ、これからしましょうか?」と彼が肯定と共にデートを私に誘う。「喜んで!!、お願いします」と私は快諾して、二人で箱庭の街へ繰り出した。

 

 今回ご紹介する曲は、作詞作曲、イラスト、動画、全てををいよわさんが一人で担当した、きゅうくらりんです。

 

 本曲は、想い人と釣り合いが取れないと思い込んでいる女性が、それでも好きという思いは止める事が出来ず、いじらしい努力をして、ひっそり咲いた恋の花は、人知れず散る、名も無き恋の物語を可不さんが歌います。

 

 本曲の題名、きゅうくらりんは、乙女の恋する時の擬音を表現したと自分は思いましたよ。

 


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 本曲の恋する乙女のハートフルな曲、好きですね。世の中にこんな、人知れず終わる恋の物語がいっぱいあるんですかね・・。曲中のいじらしい努力をする女の子の努力してるシーンは応援をしたくなりますね!

 

 本曲、きゅうくらりんは、成就するハッピーエンドの物語ではなく、そして、振られて失恋する物語でもありません。しかし、多くの恋の物語は往々にして、何か始まりそうで始まらない物語が大半ではないでしょうか?。そんな大衆の恋の物語の本曲は、大勢の人の共感を得る曲だと再生数が物語っています。ドラマの様な恋だけが恋ではない、そんなメッセージが聞こえて来そうな本曲を是非、本動画を視聴して聴いてみて下さい。

 

お借りしたMMD 

Tda様より

Tda初音ミクV4XVer1.00

 

ニコニコ大百科様より

可不