煮干しの一押しVOCALOID曲

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私と愛を歌うVOCALOID曲

こんにちは こんばんは 煮干しです

 

 アメリカの銀行がまた破綻をしましたね。こうも銀行破綻が続くと投資などに縁が無い自分でも不安になりますね。今回のファースト・リバブリック・バンクの破綻は預金の流失による破綻と報じてられますね。預金者がお金を一斉に引き出したから、銀行からお金が無くなって、破綻したとうい事ですが、日本の地方銀行や信用金庫でも同様な事が起きる可能性はあるのでしょうか?経済の事は明るくないので、そうならない様に祈るばかりですね。それでは302曲目の紹介とちょっとした物語をお送りします。

 

まず始めに、この物語はフィクションです。物語の中に登場する個人名、団体名、会社名は架空の物であり実在する個人、団体、会社とは関係ありません。

 

※題名や挿絵にBing Image Creatorを使用しました

 

曲の紹介は下の方にあります!物語を飛ばしても構いません。



 

 駅のホームに電車が止まりドアが開いた事を確認した私は、車内に乗り込むとお馴染みの異性からの視線を感じたが、構わずドアの近くの手すりに寄りかかり景色を眺めた。この視線の意味を理解したのは中2の春、男子達の会話をたまたま聞いた時だ。意味を理解した私は、その視線が不快だったが、時が経つとそれは私の価値の証明と気付き、それからは不快な感じは軽くなると同時に、自分が女である事を自覚した。日々、増え続ける異性から更には同性からの視線に晒され続けた私は、目の前に広がる世界の見方が変わる。世界は私のためにあり、この世界のヒロインである私を中心に動いていると。しかし、その穿った思考は長続きしなかった。その理由は今し方、スマホを起動してタップしたアプリ、SNSの存在だ。SNSには幸福が溢れていて、車を買いました!、旅行先で彼氏とスイートルームにいます、彼氏にバックをプレゼントしてもらいました!、ミスコンの最終予選に残りました、等々、例を挙げたらキリがない。それを見せつけられる度に私はヒロインでは無く脇役だと自覚してしまう。私は言いようのない焦燥感と不安を感じ、みぞおちの辺りでグルグルと何かが暴れている様な感覚に陥り、堪らず、SNSを閲覧するのを止める。そして、スマホをポケットに入れて、電車の窓から見える風景を見て自分を落ち着かせた。

 

 最初はSNS上に投稿される、様々な成功者や幸福な人たちを見るのが楽しかった。いつかは私もこの人たちと肩を並べると意気込んだ。しかし、憧れの先輩に久しぶりに会って、現実の厳しさを聞かされた事によって、私の視点が変わり、SNSで今まで見ていた人たちの真逆な存在の人たち、失敗した人たちが目につき始める。 私と同じ何者でない人たちが無残に失敗して、人生のやり直しが効かない光景は、この先の私の姿と思うには十分な情報量で、この先の人生にSNSで輝いている人達の様な事は無いんだと、神の啓示の様な確信を得た。私はやや深いため息をつくと、電車が丁度、架道橋に入る。鉄柱と鉄柱の間から太陽が見え隠れしていて、それはまるでこの世界の主役を舞台袖から見ている感じに見え(ああ・・私は何者にもなれない人生をこれから歩まなければならないのだな)と思った。私はまた、ため息をすると、ポケットのスマホから振動が伝わる。私はポケットのスマホを取り出すと、それは親友のメイからだった。

 

 いつものファーストフード店で待っているというメッセージだった。いつものファーストフード店とは私の自宅がある最寄り駅の駅前にある、スタミナバーガーの事だ。私は了解とメッセージを返して、窓からの景色を眺め始めた。最寄り駅につくと、私は早速スタミナバーガーに行き、メイを探す。すると、窓際のカウンター席に手を振る金髪でショートヘアの制服が私と違う女子高生がいた。メイだ。私は彼女を確認し、彼女の元へ行くと「調子はどう?」と開口一番にメイが言う。「まあ、普通かな」と私はぶっきらぼうに答え、それを聞いたメイは「全く、あんたは、いっつもつまらなそうな顔して、そんなんじゃ幸せが逃げるよ」とあきれながら言った。メイは中学生からの付き合いで、高校が別々になっても、私達の繋がりは続いている。

 

 「ちょっと、注文してくるから」と私はメイにそう告げると、注文カウンターに向かう。「いらっしゃいませ!スタミナバーガーにようこそ!イエス!モリモリ!」と独特な接客をしながら、右手の上腕二頭筋を見せつけて、左手でそれを摩る仕草をした。スタミナバーガーがまだ無名な頃、この奇妙な接客には私も驚いたが、人間とは不思議なもので、慣れてしまうと、今では何も感じない。「スタミナバニラシェイクとスタミナバーガーを下さい」と私が注文をする。店員はすかさず「イエス!注文を頂きました!!スタミナバニラシェイクとスタミナバーガーですね?」と言い「はい」と私が応え、店員は「了解しました!モリモリ!」と上腕二頭筋をまた見せつけてきた。数分後、頼んだ物を受け取り、私はメイの隣に座る。すると、メイは「私たちさー、そろそろ次のステージに行かない?」と言った。



 

 この子は昔から、突拍子もない事を言う。「次のステージって何?」と私が質問をしながら、スタミナシェイクをストローで吸う。「私たちも高校2年じゃん、そろそろ、大人のコーデしたくなる年頃じゃん?」とメイが答える。要するにファッションを某激安婦人服店から一流アパレルメーカーに変えるという事らしいが、親からのお小遣いでやり繰りしている私やメイでは到底手が届かない。「私たちの経済力では無理でしょ」と私はスタミナバーガーをひとかじりしてメイの提案を切って捨てる。しかし、「それは分かってるって!」メイは食い下がり、続けて「だからさ!金を稼ごうよ!一緒に!」と目をキラキラしながら言う。「金を稼ごうって・・アルバイト?私たちが出来るアルバイトの稼ぎってたかが知れているでしょ、まさか・・パパ活」と私は最後の方は声のボリュームを絞りメイに尋ねた。最近、女の子同士の会話で冗談交じりでパパ活の話が出るが実際はどうなんだろうか?

 

 パパ活?」と、メイが普通のボリュームで言うと周りの客が一斉に私たちを見る。「声が大きいよ、メイ!」と私がメイを咎めると「あ、ごめん・・」とメイは少し回りをキョロキョロ見た。「パパ活なんてしないよw私を何だと思っているのw」と笑いながら言う。しかし、私の目から見てもメイの無駄に良いスタイル、喋り方は、パパ活とういうワードに違和感が無かった。「実は割のいいバイトを見つけたんだw」とメイは嬉しそうに言い「割のいいバイト?」と眉をひそめながら私が聞く。「アリス堂ってしってる?」とメイが質問をして「有名ケーキ屋さんでしょ」と私が答える。アリス堂、ここら辺で知らないものがいない有名ケーキ屋さんで、電話一本で店が指定されたエリアならどこでも届けるという変わった店だ。「実はね、あそこのオーナーさんとうちのお母さんが中学校の同級生で、お母さん経由でアリス堂からアルバイトやらないかって誘われているの」とメイは自慢げに言う。「へーそうなんだ、それで?」と私が続きを話の続きを促す。「それでね・・夏休みの間、私と一緒にアルバイトやらない?一緒にステージアップしよう!」とメイは言った。

 

 結局、心細いから、理由を何とかこねくり回して、私に来て欲しいのだろう・・だいたい、ステージアップってなによw「良いよ、夏休みの間なら大丈夫」と私はメイの誘いに乗る。「マジ、助かる!仕事はケーキ作りの補助とケーキの配達らしいから、簡単だよ!」とメイは嬉しそうに言い、続けて「期待しているからね!相棒!」と私の手を握る。そして、数か月後・・人生一度っきりの高校二年生の夏が来た。私は、メイと待ち合わせの駅のロータリーに向かっている。今年の夏もやはり尋常でない暑さで、うんざりするが、今日は雲一つない爽やかな美しい青空が広がり、幾分か暑さが紛れて気持ちは楽だ。駅前のロータリーに着くと、メイが車の脇でもう待っていて、こっちに手を振っていた。私がメイの元へ駆けつけると、車から見知らぬ男性が出てきて「やあ、おはよう!アリス堂のオーナー、東雲(しののめ)です!今日から一か月よろしくね」と私に挨拶してくる。東雲さんは、デニムのパンツとポロシャツのラフな格好をしていて、これから仕事をする様に見えなかった。

 

 「はい!よろしくお願いします!」と私は東雲さんに挨拶する。そして、「相棒!今日からよろしくw」とメイが私に抱きつく。「ちょっと!暑いんだから、抱きつかないでよ!」と私がメイに抗議して、私たちは笑いながら送迎車に乗り込んだ。アリス堂に着くと、早速、私たちは従業員用の更衣室に案内されて、作業着を渡された。私はアリス堂の制服である、フリフリのメイドさんの様な服を着させられ、仕事をさせられると思っていたが、目の周りだけ露出して、全身白い作業着になるとは予想をしていなかった。私たちはお互いを見合う。するとメイが「何だか、これじゃあ、お互い誰か分からないね・・」と言い、それに対して私は「そうだね、声を聞いてようやく分かる感じだね」と言った。「まあ・・慣れれば分かる様になるっしょ!じゃあ行こ!」とメイの言葉を聞き「そうだね」と同意して、ケーキ作りをしている調理室に行く。厨房に入ると清潔感が漂う綺麗な空間が広がり、ケーキなどを作る調理器具が一糸乱れ無く並べてある。私たちは始めてみるプロの仕事場に感嘆の声を挙げた。

 

 「それでは、早速、モンブランの調理補助をお願いできるかな?」とプロの現場の空気の飲まれて、立ち尽くしていた私たちに、同じように目の周りだけが露出している白い作業着の男性が話しかけてくる。その声には覚えがあった。「東雲さんですか?」と私が尋ねる、「よく分かったねwそうだよ、じゃあこっちに来て」と東雲さんが、私たちを小さいスポンジケーキが沢山並べてある、ステンレスのテーブルに誘導した。「メイちゃんは、僕がマロンペーストをスポンジケーキに載せるからその後に、このボールに入っているクリを乗せてね」と東雲さんが言ながら、茹でた栗が沢山入っているボールとトングをメイに渡す。そして、今度は私を見て「君はメイちゃんがクリを載せたら、このナパージュをハケで塗って、クリをコーティングしてね」と東雲さんは炊飯器の様な物を開ける。炊飯器の様な物の中に透明な液体が入っていて、東雲さんはその液体にハケを入れた。

 

 「じゃあ、始めようか!今日は初日だから失敗しても落ち込まないでねw」と東雲さんが言い、先端に金属が付いた三角錐の形をした、黄色いマロンペーストがパンパンに入っているビニール袋を持ち出し、スポンジケーキにマロンペーストを載せ始める。糸状になって出てくるマロンペーストを、見事に手早く載せて、あっという間に10個のスポンジケーキがお馴染みのモンブランの鮮やかな黄色い糸状の山が出来上がった。「二人共!見とれてないで、早くやって!」と東雲さんが作業を促すと「はっ、はい」と同時に私たちが返事をする。メイがクリを載せたのを確認して、私はハケを持ちナパージュをクリに塗ると、あっという間に固まり、クリとその周辺のマロンペーストがテカテカし始めた。モンブランの表面がテカテカしていたのはこれの為かと私は凄く関心をした。

 

 三時間後・・私たちは休憩所でぐったりしていた。初めての労働、初めてのケーキ作り、今日は初めて尽くしで疲労困憊だ。「大人って・・毎日これをやっているの?ヤバくない?」とメイがテーブルに俯け(うつむけ)ながら言い「・・そうだね」と私は何もない空間をボーと見ながら同意した。数分後・・「お疲れ様!」と誰かが私たちに声をかける。私たちは声がした方を見ると東雲さんだった。「だいぶん、参っているねwケーキだよ!どうぞ」と東雲さんはトレイに入った紅茶とイチゴのショートケーキを私たちの前に出す。すると、さっきまでぐったりしていたメイが「すごーい!!私たちが作ったケーキだ」とはしゃいだ。メイの台詞に若干の語弊を感じるが、関わっているのは事実だ。そして、それがアリス堂のショーウィンドウに並んでいるのは誇らしい。私たちは東雲さんにお礼を言い、早速フォークをケーキに刺し、それを口に運んだ。何という美味しさなんだろうか・・アリス堂のイチゴのショートケーキを食べたことがあるが、現在、食べているイチゴのショートケーキは別物に思える。「これは、幸福という奴だね」とメイが私に言う。それに対してもくもくとイチゴのショートケーキを食べながら、私は無言で頷いた。こんな所にも幸福がある・・この幸福感は確かだ。ほんの数センチのデザートにも幸福は存在して、結局、幸福とは何か?今まで幸福だと思っていたものは何か?先ほどのモンブランの事でさえ碌に知らない私には、その答えを出す事は出来なかった。



 

 それから毎日ケーキ作りの補助をしていると、ある日、東雲さんが今日は宅配の方を頼むと言われ、いつもの作業着ではなく、アリス堂の店内で接客している従業員と同じ、フリフリのメイド服を着た。「どうよw」とメイがくるりと周り、メイド服を私に見せつけてくる。「可愛いよw」と私の褒め称える台詞を聴いたメイは「嬉しいwあんたも可愛いよ」とお返しに私をほめた。「はい!そこの二人!さっさと宅配用のケーキを詰め込む!」とメイド服でじゃれ合っていた私たちに普段着姿の東雲さんが指示をしてきて「はい!」と私たちは返事をし、予め他の従業員さんが仕分けしたケーキを車に乗せる。「じゃあ、行こうか!」を宅配荷物を積み終わった事を確認した東雲さんが言い、再び「はい」と私たちは返事して後部座席に乗った。

 

 「おはようございます!ルリルリのローカルニュース!今日も元気にお送りしたいと思います。今日も暑いですね!水分補給をこまめに補給して熱中症には十分気を付けて下さいね!本日の一曲目は渚のアイドルです」と宅配先に向かう私たちの沈黙した車内にラジオが流れていた。仕事中だから私語を慎むべきとだと、二人で示し合わせた訳ではなく、何となく黙っていると「どうしたのw急に黙って」と東雲さんが笑いながら私たちに声をかける。待っていましたとばかりに「これからどこへ行くんですか?」とメイが沈黙を破り、東雲さんに尋ねた。「これから行く所は紙結(かみゆい)総合病院だよ」と東雲さんが言い「病院?お医者さんや看護師さんが頼むんですか?」と私が二人の会話に割ってい入り東雲さんに尋ね「まあ、確かにそいう場合もあるけど、殆どは身動き出来ない患者さん本人やご家族の注文が多いね」と答える。するとメイがすかさず「えっ!?じゃあ、これから私たちは患者さんに直接渡すって事?」と質問をしたら、東雲さんが少し笑い「君たちw質問多いねw看護師さんと同伴だから大丈夫だよ」と答えた。そして、5分位で紙結総合病院に着く。

 

 紙結総合病院の入口は駅前のロータリーの様になっており、自家用車、タクシーや送迎バスが容易に入ってこれて、患者さんが病院から出て直ぐに乗り込めるようになっていた。私たちの車は病院の入口に近い駐車場に止めると、東雲さんの指示に従い宅配するケーキを持って、病院に入って行く。病院内に入ると東雲さんが先陣を切って、受付に行き「いつもお世話になっております、アリス堂です。患者さんの依頼で宅配に参りました」と東雲さんが受付の女性に言った。「ああ、これは、これは、ご苦労様です!どちらの患者様ですか?」と受付の女性が東雲さんに尋ねる。「今日は、こちらの患者様達です」と東雲さんが宅配リストを受付の女性に出し「少々お待ちください、担当看護師の方に連絡しますね、そちらでお掛けになってお待ちください」と受付の女性の指示に従い私たちは待機した。

 

 鮮やかな青いフリフリのメイド姿は病院内ではかなり目立っているが周りはあまり気にしていない様だった。数分後・・「担当看護師の方には連絡して了解を得ましたので、どうぞ、ケーキを届けて下さい」と受け付けの女性が私たちの元へ来て言うと、元の受け付けの方へ去って行った。「じゃあ、手分けして宅配しようか!はい、これ」と東雲さんが私たちに、宅配先の病院の病室番号が書かれた紙を手渡す。そして「患者様の所に直接行かないでね!まずはナースセンターに行って、看護師さんの許可の得てから患者様に訪ねる事、分かった?」と東雲さんの指示を聞いた私たちは「はい!」と応え「何か緊張するw」とメイが言いそれに対して私が「そう?」と言い、解散して、私たちはそれぞれの宅配先に行った。

 

 私は紙に書いてある通り、患者様がいる病室に向かうためにエレベーターに乗り込む。エレベーターが止まり宅配先の患者様がいる区画に入ると、終末医療区画と案内に記されていた。私は東雲さんの指示に従い、ナースセンターに寄って「おはようございます、アリス堂です、武田様の依頼によりケーキをお届けに来ました」と私がナースセンターの窓口で声をかける。机で何やら書類の目を通していた看護師さんが私に気付き「あら、あら、可愛いメイドさんw」と言いながら窓口の前まで来た。「あの、アリス堂です、ケーキを届けに来ました、武田様はどちらの病室でしょうか?」と再び私が看護師に尋ねる。「武田さんですか?私について来て」とナースセンターから看護師さんが出て来た。

 

 私は看護師さんの後をついて行く。そして、武田と書かれた表札がある部屋の前に着くと、看護師さんがドアをノックする。すると、病室の中から「どうぞ」と声がした。看護師さんと私が病室に入ると、病室はまるでワンルームのアパートの様なになっており、私物に溢れていておおよそ病室とは思えない部屋だった。「武田さん、御加減はどうですか?」と看護師さんが武田さんに尋ねている。武田さんと呼ばれた男性は初老で白髪、やや、やせていて、長袖の赤いチェックガラにカーキ色のパンツの普段着姿だった。「ええ、まあ、まあ」ですと武田さん答え「今日は可愛いらしいメイドさんをお連れしましたよ」と看護師さんそう言って私を見る。すかさず、私は「アリス堂です、ケーキのお届けに参りました、どうぞ」とケーキが入っている箱を渡す。武田さんは差し出されたケーキの箱を受け取ると「ご苦労さまです、メイドのお嬢さん」と私に対して労をねぎらった。

 

 「武田さん、今日は更新しないんですか?」と看護師さんが武田さんに尋ねる。尋ねられた武田さんは「今、更新中ですよ」と起動中のパソコンを指した。パソコンにはSNSの編集画面が広げてあり、見覚えのある車の画像が映し出されていて、私は思わず「あっ!」と声を上げてしまう。「メイドのお嬢さん、どうしました?」と声を上げた私に驚いた武田さんは尋ねる。「あ、ごめんなさい・・SNSでお見かけした投稿だなと思いまして」と私が答えた。「武田さん!ファンがこんな可愛いらしいメイドさんで良かったですねw」と冗談混じりで看護師さんが武田さんをヨイショして「お恥ずかしい限りですw」と武田さんは照れていた。武田さんはどう見てもかなり長期間の間、病院で療養している感じで、その割にはSNSの更新は頻繁に行われていているのは何故か?私は真相が知りたくて「お医者さんの許可得て、ドライブにいくんですか?」と私は武田さんに質問をする。「突然だねwメイドのお嬢さん、見ての通り僕は病院に長期療養してる身だからね、SNS用の画像は息子に僕の愛車であちこち行かせて、愛車の写真を撮らせてるんだよ」と武田さんは答えてくれた。

 

 そうだったのか・・・てっきり裕福なおじさんの道楽だと思っていた。武田さんの話しは続き「まあ、ドライブしたいのは山々だけど・・これがね・・」とシャツをめくりお腹に何やらシールが貼られていた。「これは何ですか?」と私が武田さんのお腹に貼っているシールの事を尋ねる。「これはね、モルヒネパッチって言って痛みを和らげるものなんだけど、副作用で意識が少し朦朧としてね・・運転が難しいんだ」と武田さんは言い、すかさず私は「あの、痛みって何の病気ですか?」と少し食い気味で尋ねた。「僕ねガンなの、君がここの区画に入る時、終末医療って案内なかった?、僕の様に余命を宣告されて、残りの人生を苦しまないで過ごす事を選択した人が来る場所なんだよ」と武田さんは、近い将来に死が待っている人とは思えない、ゆったりと落ち着いた口調で己の事を語る。そして「まあ、本来なら定年退職後、僕自身が愛車のスポーツカーを乗り回して、SNSに投稿しようと思ってたけど、この様だからねwせめてネットの中だけでも演じていたいのさ、普通の人生って奴を」と言った。「あ、あの、ごめんなさい、立ち入った事を聞いてしまって」と私が謝罪する。すると武田さんは「いいよ、いいよ、君みたいな可愛いメイドさんが僕のSNSを見てくれるなんて、やり甲斐があるってもんだ」と武田さんが私が気に病まない様に言ってくれた。

 

 「あの、同僚が待っていますので、そろそろ、失礼ます」と私が言い、それを聞いた武田さんは「ごめんね、引き留めたりして」と返して来た。「いいえ、気にしないでください、またのご利用お待ちしてます」と私は言い、終末医療区画を後にした。集合場所の病院のロビーに着くとメイと東雲さんが先にいて「どうだい?滞りなく出来た?」とやや遅れて来た私に心配そうに東雲さん言い、「はい!しっかりと受け渡しました、依頼者の患者さんと話しをして遅れてしまい、すいませんでした」と私が謝罪をする。「いいよ、まだ時間も余裕あるし、それじゃあ、次の宅配先い行こうか!」と東雲さんが優しく私をいたわり、次の宅配先へ行く事を促す。それに対して「はい!」と私たちは返事をして次の宅配に向かった。それから、私たちは様々な場所に行って、ケーキの宅配をし、お昼前位に全ての宅配は終了して店に戻る事になった。そして、お昼休憩をしに店に戻る車中、「店に戻る前に、駄菓子屋でアイスでも食うか!」と東雲さんが提案する。すかさずメイが「やったー奢りだ!」と喜び「ありがとうございます」と私は礼を言った。

 

 駄菓子屋に着くと、東雲さんは早速、カップアイスを買い、私たちに手渡し、駄菓子屋の店主と世間話をし始める。どうやら、東雲さんお知り合いの店らしかった。私たちは駄菓子屋の軒下のベンチに座り、カップアイスの蓋を開ける。アイスは緑色で人工甘味料の味がするシンプルな氷菓子だ。この猛暑の中、ケーキを宅配してヘトヘトだった私たちには何よりのご馳走だった。私たちは早速、木のスプーンを氷菓子に差し込み、木のスプーンに乗せた緑の氷菓子を口に運ぶとヒンヤリして気持ちよく、咀嚼する度にボリボリ、シャクシャクと、氷の音が頭の中に心地よく響く。それから、私たちは無言でアイスを食べ続けて、完食した。アイスによって、一時的に、夏の猛暑で火照った体がクールダウンし、妙な高揚感に包まれる。私とメイは何かを話す訳でもなくボーとしていると、わずかな風が駄菓子屋の軒下に吊るされている、風鈴をチリン、チリンと鳴らし、学校が近いのか、部活動の声出しや子供達の笑い声が聞こえてきた。



 

 「夏、本場って感じだね」と突然メイが言い、「何w急に?」と私が応え、私たちは互いの顔を見る訳でもなく、青い空を二人で眺めている。「あんた、病院で何かあった?」とメイがまた突然言う。メイの勘の鋭さには恐れ入る。確かに病院で武田さんと邂逅した事によって私の心には変化が生じたが、それはトラウマの様な激変ではない。極めて僅かな変化で他人に申告する程ではなかった。「何もないよ、何?」と私は至極平然と答え「そう?ならいいや」とメイが言った。メイは勘が鋭く、何かを察知するが、ずかずかと踏み込んでこない、メイのそいう所、好きだ。私たちは再びぼんやり空を眺めると、はるか上空に飛んでいる飛行機のエンジン音が微かに聞こえる・・そして、風が吹き風鈴の音が鳴り、何故だかは分からないが「何か幸せだね」と私は呟く。それに対してメイは「そうだね」と同意した。アルバイトを通して、幸福と言う価値観の見方が少し変わったと思う・・先ほど食べたアイスや、こうしてメイとのたわいもない会話、親友と同じ時間、場所で過ごす事、ほんの些細な所に幸福は潜んでいると私は思う。そして、SNSで見た幸福はまがい物とは言わないがそれは私の幸福ではない。幸福とは酷く主観的で他者と共感できる代物ではないのだ。この先の人生で考えがまた変わるかもしれないが、今はこれで良いと私は思う。

 

 

 今回ご紹介する曲は、れるりりさん作詞作曲、編曲をtepeさん、ミックスとマスタリングをかごめPさん、映像を利波 雷さん、イラストをべにちるさんによるIなんです

 

 本曲は、自己中心な考えと主観的な幸福が転じて愛する事の喜びと幸福を悟る物語を、リズミカルな曲に合わせて初音ミクさんが歌います。

 

 本曲の題名、Iなんですは、曲中の内容からIは自己と愛の二種類の意味を込めてあり、それらを加味して考察すると、他者を愛するとうい事は己を愛する事と同一という意味を自分は見出しましたよ。

 


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 キュートなアニメーションと曲がマッチしていて、とても楽しく聴けましたよ!くまさん人形の挙動が凄く好きですw

 

 本曲、Iなんですは、愛とは何か?己とは何か?幸福とは?とキュートな雰囲気に反して哲学的な内容になっており、そのギャップで聴いた者を魅了し、離さない素晴らしい曲だと思いますので、是非!本動画を視聴して聴いてみて下さい。

 

 

 

お借りしたMMD 

Tda様より

Tda初音ミクV4XVer1.00

 

ニコニコ大百科様より

初音ミク