煮干しの一押しVOCALOID曲

VOCALOIDの話題や気になった事を書こうと思います

希望の星が紡ぐVOCALOID曲

 


こんにちは こんばんは 煮干しです

 

 栃木県高根沢町にある御料牧場に静養中の天皇御一家が揃ってインタビューを御受けになられ、肉声が地上波に流れているのを見て自分はビックリしましたよ。普段なら字幕でナレーターの方が読み上げるのを、今回はしっかりと肉声で受け答えする映像が流れているのは、これまでの皇族のスタンスから脱却し、変えていくという意思の表れなのでしょうか?何にしても御家族そろって御息災でいて、何よりだと思います。それでは298曲目の紹介とちょっとした物語をお送りします。

 

ます始めに、この物語はフィクションです。物語の中に登場する個人名、団体名、会社名は架空の物であり実在する個人、団体、会社とは関係ありません。

 

曲の紹介は下の方にあります!物語を飛ばしても構いません。

※今回、Bing Image Creatorを使用しました

 


 俺は片側一車線の山道を三輪バイクで上っていた。道路の両側にある木々には、美しい新緑が生えそろっていて、俺の気分が高揚するのが分かる。何度目かのヘアピンカーブを曲がりきると、大きな屋敷が見えてきて、大きな屋敷に相応な大きな門の前で、エプロンをしてショートカットのお手伝いさんらしき女性と、長い黒髪を三つ編みにした有名お嬢様学校、白瀬学園の制服姿の女の子が待っていた。三つ編みの女の子は俺に気が付くと手を振っいて、その無邪気な仕草に、自然と顔が緩んで俺は毎回笑顔になってしまう。門の少し手前で止まり、荷台から宅配物を取り出して、彼女達の元へ駆け寄る。「緑庵堂のデラックス抹茶パフェを二つです!間違いないでしょうか?」と俺は彼女達に確認をすると「間違いございません、ご苦労様です」とショートカットのお手伝いさんは応え、俺からパフェが入っている手提げ袋を受け取り「お嬢様、抹茶パフェですよ」とショートカットのお手伝いさんは三つ編みの女の子に渡した。

 

 「いい香り!!抹茶の香がする!イツキ!部屋で待ってますね!」と三つ編みの女の子が言って走り去ろうとした時「お嬢様!何かお忘れではないでしょうか?」とイツキと呼ばれたお手伝いさんはそう言いながら、三つ編みの女の子の手首を掴んだ。「あっ・・有難うございます・・また機会があったらよろしくお願いします」と三つ編みの女の子はペコリと頭を下げて今度は歩いて立ち去った。三つ編みの女の子が立ち去るのを確認したイツキと呼ばれたお手伝いさんは俺の方を顔を見て「こんな辺鄙(へんぴ)所にわざわざいつもお越し頂いてありがとうございます。これは少ないのですが」と言ってポチ袋を俺に渡してきた。「あっ、いつもすいません!」と俺は恐縮しながらポチ袋を受け取る。こうやって、チップをいつも貰って恐縮なのだが、俺は常々ある疑問を持っていた・・今日こそは積日の疑問を聞いてみようと決断をし「あの・・この家の権力を使えば、配達に依頼をしなくても、店の方から直接持って来るんじゃないんですか?」と彼女に質問をすると「富める者の行動は常に見られています。いかなる時も相手の付け入る隙を見せるなというのが当家の方針ですから」と単純明快な答えが返ってきて「流石!名家ですね!」と俺が称えると彼女は少し得意げな顔をした。

 

 「またの機会がありましたら、よろしくお願いします」と彼女は言って頭を下げ、脇戸を潜り、もう一度俺を一瞥してから会釈して脇戸を閉めた。俺は小学校から高校にかけて空手を習っていたのだが、彼女は相当の手練れだと思う。それは、何度目かの配達時に、ポチ袋を渡され彼女の拳に偶然触れた時、女性とは思えない固さだった。その上、常に組手をしてる様な隙の無さと、軽やかな身のこなし方が感じられる事から、只物じゃないと俺は思う。一仕事終えた俺は大門の前に広がる景色を眺めた。街並が碁盤の目の様に広がり、その先には小高い山が見え、そして、さらに奥には山脈がそびえ立っていた。街の名は紙結市(かみゆいし)、都心から約一時間の中核都市、日本屈指の財閥、白瀬財閥のお膝元で主な産業は自動車関係と縫製、印刷と製本だ。そんな街で配達を生業としている俺の名は小鳥遊 治平(たかなし じへい)、生まれも育ちも紙結市(かみゆいし)で生粋の紙結(かみゆい)人だ。

 

 俺は数十件の宅配を終えて自宅に帰り、時計をチラチラ見ながら晩御飯の支度に追われていた。今日の晩御飯は唐揚げだ。スーパーでタイムセールがやっていて鶏肉が安く手に入ったからだ。俺は揚げ終わった唐揚げをキッチンペーパーを敷いたトレイに手早く上げて、余分な油が切れる間に、トマトを洗い、まな板で一口サイズに切ると、二つの皿に唐揚げとトマトを均等に分けて盛った。あらかじめ作っていたジャガイモと玉ねぎの味噌汁に煮えばなが出てきたので火を止めて晩御飯は完成した。数分、テレビの前で俺が寛いでいると、玄関のドアがいきなり空き、ミディアムボブのヘアスタイルをして、ライトグレーのサマーコートに黒いパンツのスタイルの女性が家に入ってくる。彼女はリビングに入るなり「疲れたーもうダメ・・死ぬ、死ぬ」と言いながらソファーに倒れこんだ。彼女は真中美月、俺と同棲中の恋人である。「お疲れ様!お風呂沸いているよ、先に入ったら?」と俺は彼女の疲れを労い、入浴を勧めると「ありがとう、そうさせて貰うわ」と彼女は応えて脱衣所に入り服を脱ぎ捨てると浴室に入って行った。

 

 約20分位だろうか、浴室のドアが開き、ドライヤーで髪を乾かす音がしてくる。俺はその音が合図とばかりに、再び味噌汁を温め直して、テーブルに晩御飯を並べ、グラスにビールを注ぎスタンバイしていると、脱衣所で着替える音がした後に、頭にタオルを巻いてラフな部屋着の姿で彼女が脱衣所から出てきた。彼女はテーブルの椅子に掛け、注いであったビールを一気飲みすると「ぶはー・・くそっ」と毒を吐く。「今日は病院の仕事大変だったの?」と俺は温め終わった味噌汁を彼女の前に置きながら尋ねる。「今日は?今日もよ!気が休まからない仕事の話を振らないで・・」とうんざりした顔をして、本格的に食事をし始めたので、俺も彼女に続く。彼女は看護師であるのだが、昇進すると以前より激務になって、笑顔が可愛かった彼女は、あまり笑わなくなってしまった。悲しかったが、美月をその様にしてしまったのは、俺の所為だった。それは、俺の宅配の収入はたかが知れていて、彼女の収入に頼り切っているのが原因だ。同棲するにあたって、お互いに手と手を渡り合って生きていこうと誓い合った。彼女はがむしゃらに働いてそれが認められて昇進して収入が増える。それに比べ、俺はというと、同棲前からやっている宅配は年々収入が落ちて行き、うだつの上がらない男になってしまった。

 

 同棲直後は対等な関係が今や養っている者と養われている者の関係になっていて、徐々に俺達の間に隔たりが広がりつつあった。俺達は食事を終えると、彼女はリビングで寛ぎ始めて、俺は食器洗い機に使用した食器を入るなど食後の後片付けをした。後片付けを終えてリビングに向かうとロングソファーに寝込んでいる彼女が俺の方を見ながら「マッサージ!」と一言だけ言い、うつ伏せの姿勢になり、待機し始める。俺は「はい、はい」と言って、ロングソファーの前で膝をつき、背中をマッサージし始めた。「ねえ、美月?」と俺はマッサージをしながら彼女に話しかけると「何?」と彼女は応え「俺さ、迷惑じゃない?」と俺が尋ねる。「うん、迷惑だね」と彼女が答え「えっ・・じゃ、俺はどうすればいい?」と俺は辛辣な言葉に驚きつつも、彼女に自分の進退を聞く。「なーに!、殊勝ぶってんのよ!だったら迷惑にならない様に頑張るぐらい言えないの?」と今まで淡々としていた彼女が体を起こして、真っ赤な顔をして俺に言い放ち、続けざまに「私が頑張っているのは治平(じへい)、あんたのためなのよ!わかる?だからあんたも私のために頑張ってよ!」と久しぶりに彼女の大きな声を聞いて俺は「ご、ごめん・・頑張るよ」と恐縮しながら言う。「迷惑じゃない何て、取り繕うって言う柄じゃないから、はっきりもう一度言うけど、現状だと迷惑よ!だから歯を食いしばって頑張ってよ!」と言い、俺をぎゅーと抱きしめる。風呂上がりの彼女はいい匂いがした。

 

 翌日、美月に発破をかけられて、いつもよりシャカリキになって配達をしていた。「もう、これで25件目か・・」と俺は呟き、宅配用の弁当が出来上がるまで、店の外で待機しつつ物思いにふける。(10件、20件、増やして俺の状況が変わるだろうか?)と先が見えない不安が徐々に強くなった時、宅配用の弁当が出来上がり、それを受け取り宅配先に向かった。宅配が終わり、スマホの時計を見ると午後2時を表示している。経験上、この時間帯は宅配は少ない。ここらで食事休憩をしようと考えた俺は、いつもの公園に向かった。公園の駐車場で休憩に入った俺は、何か光明がないものかと考えながら、自宅で作ったおにぎりにかぶりつく。それから、数度おにぎりにかぶりついた時、俺と同じ三輪バイクが隣に泊まって「よう!治平(じへい)!精が出るな!」と上下デニムで体格がガッシリした男が話しかけてきた。俺はすかさず「おう!お疲れ様、東(あずま)!」と返した。東(あずま)は小学生からの腐れ縁で今も親しくしてもらっている。東(あずま)は自販機でコーヒーを買うと一口飲んで「なあ・・最近配達が減ってきてないか?」と愚痴って来た。確かに、ここ最近は明らかに宅配注文が減ってきている印象を俺も感じていて、原因は俺の様な立場の者に知る由もないが、分かっているのはこの仕事は先行きが暗いという事だ。それは東(あずま)も同じ見解で、俺達は人生の袋小路に迷い込んだ気持ちになっていた。「そうだな・・」と俺は同意して何か明るくなる話題があれば良かったが生憎それは無い・・そんな時だった。

 

 「おいwおいw若い二人が何しょぼくれてんだよ!」と明るい声で俺達に誰かが声をかけてきた。60歳ぐらいの初老で、白髪混じりの長い髪を後ろで束ね、長袖のアロハシャツにデニムのパンツを着た男、それはセイさんだった。セイさんは休憩してる俺達によく話しかけてくれる人で、素性は知らないがセイさんとだけ名乗っている。「セイさん・・何かいい話ないっすか?」と俺はよく知らない老人に助けを求める。「世間話をするだけの老人に助けを求めるとはよっぽど困ってんだなw、んー・・そうだな一つだけあるぞ」と言ったセイさんはまるで地獄の亡者に蜘蛛の糸を垂らす仏様に見えた。「マジっすか?、それは?」と俺と東(あずま)は話に同時に食いつき、セイさんのアロハシャツを掴んだ。「まて!まて!落ち着けって!離せ!」とセイさんは手で振り払う仕草をしたので俺達は「あ、すいません・・」とセイさんに謝った。「お前ら、どんぐりゴールドコインを知っているか?」とセイさんは俺達に尋ねる。尋ねられた俺達はお互いを見合って「懐かしいw俺達が小学生の時にそんなんありましたねw」と東(あずま)が言うと俺も相槌しながら一緒に笑った。どんぐりゴールドコイン、それは俺達が小学生の時に、あの白瀬財閥が発行したコインで、ボランティアなどの善行や運動で優秀な成績を出した者に配られたコインだ。このコインが配られる対象は紙結市民全員(かみゆいしぜんいん)が対象で、白瀬家の当主はコインが貰えるというインセンティブによって市民達の積極性を促せると考えたが、コインを何かに交換出来るという付加価値が無く、ただの鉄の金メッキを欲しがる大人は皆無で、唯一、子供達が興味を持ったのだが、現代の子供は多種多様な娯楽に囲まれており、そんな環境の中にいる子供達に、興味を引き続ける魅力は、どんぐりコインには無く、あっという間に忘れ去られ、白瀬財閥は3年ほどで発行を止めた。

 

 「そのどんぐりゴールドコインが何なんです?」と俺が半笑いしながらセイさんに尋ねる。「そんな笑う事か?・・まあいい」とセイさんが何故か少し不機嫌になっていたが続けて「そのどんぐりゴールドコイン何だが、どうやら白瀬財閥が秘密裏に回収してるらしいんだ」とセイさんが言い「えっ・・何故です?」と話の核心を聞きたくて、俺は少し興奮気味でセイさんに続きを促し、笑っていた東(あずま)も神妙な面立ちになる。「理由はわからん・・ただ、白瀬銀行の窓口にコインを持っていくと1コイン一万円と交換して貰えるそうだ」とセイさんが少し声のボリュームを落として言う。それを聞いた東(あずま)が「うおっ!マジで?実家に確か5,6枚あるぞ!」と興奮気味にガッツポーズをし、「しっ!人に聞かれるだろ!」とセイさんが東(あずま)をたしなめた。俺の実家にも確かそれぐらいあった気がする。思わぬ幸運に俺達は、はしゃぎ、「セイさんありがとうございます!俺達、実家に戻ってコインを取ってきます!」と俺達がセイさんにお礼を言う。「おう!気を付けてな!」とセイさんは言って、見送りの言葉を受け取った俺達はそれぞれの実家に向かった。

 

 実家に着くと、早速、元自分の部屋に向かった。しかし、自室は見事に私物の全てが無くなっていて、綺麗な和室になっていた。急いでリビングに向かうと、三時のおやつの煎餅をボリボリ食べながらテレビを見ている母さんが突然現れた息子である俺にびっくりする。「まあ!何?!帰ってくるなら帰ってくるって連絡してなさいよ!」と母さんは驚きながらも少し嬉しそうに言った。「あのさ!俺の私物何処かな?」と焦燥に駆られた俺は大きな声で尋ねると「突然何?あんたの荷物?ああ、それなら蔵の中に全部入れたわよ。それよりもさ、美月ちゃんとどんな感じなの?今度、あの子を連れて来なさいよ!」と母さんが凄くめんどくさい話に持って行きそうだったので「ああ、機会があったら連れてくるよ!」と俺は手短に言って、話を強制的に終わらし蔵へ向かう。早速、俺は庭にある蔵の重厚な扉を開けて蔵に入ると、カビの匂いと埃、相変わらず色んなものを適当に積み上げてしまっているためにカオスな状態だった。スマホのライトを点けて、辺りを探ると・・比較的に新しく積み上げた荷物があって、そこを丹念に調べると・・その中に見覚えがある私物の一部が、段ボールからはみ出していて(あった!)と心の中で俺はガッツポーズした。

 

 俺は段ボールを開けて探すと、見覚えがある巾着袋を見つけて、中を確認してみる。中にはコイン6枚と紙の様な物が入っていた。巾着袋からコインを取り出してみたら、コインはどんぐりの実を真ん中に輪切りしたようなデザインで、少しずっしりしていて、金メッキが鈍く光っている。「6枚あるw締めて六万かw」と俺はテンション高めで呟く。その時、「何それ?」と急に俺の後ろから声がして「うおっ!」と俺が後ろを振りむくと、母さんがいた。母さんは間髪入れず俺の手のひらからヒョイとコイン一枚を取り上げて「あら?懐かしい!これってあんたが小学生の時に貰った奴でしょ?」と笑顔で言っていたのだが、俺のスマホのライトが丁度、下から照らされていて、ホラー映画の様な有様だった。「返せよ!」と俺が母さんからコインを強引に取り返す。息子の行動に異変を感じた母さんは「今更、何に使うの?」と俺に尋ねて「えっ・・いや、友達に見せるためだよ!」と俺は思いついた嘘を取り敢えず言ってみる。もしも、馬鹿正直に銀行で換金が出来ると言えば母さんは迷わず俺からコインを全部没収するだろう・・「へー友達って東(あずま)くん?あんた友達って東(あずま)君しかいないものね」と母さんは相変わらず人が気にしている事をずけずけと言ってくる。「そう!東(あずま)の奴が急にコインを見せてくれってせがまれてね!」とこのまま嘘が押し通せると見た俺は調子よく言うと「フーン・・まあ、どうでもいいけど、あんたもいい年なんだから早く身を固めなさいよね!」と母さんは俺に言い捨てて家に戻った。(ふーヤバかった・・よしっ!銀行に急ぐぞ!)と何とか乗り切った事に安堵しながら俺は、白瀬銀行に急行する。

 

 白瀬銀行に着くと、こちらに気づいて、東(あずま)が手を振って「治平!急げ!窓口がもう閉まるぞ!」と俺を急かしてくる。俺は分かったと手で合図して、急いで銀行に入ると、窓口の手前にあるシャッターが半分降りていてた。「すいません!換金したいんですけど!」と俺が急いで窓口に滑り込んでコイン6枚を出す。すると、窓口の銀行員が俺のコインを確認して特段変わった様子も無く「どんぐりコインの換金ですね。そこのお席にお掛けになって少々お待ちください」と言い、銀行員はおもむろにコインを手に取って、コインに記されている刻印番号を確認し、紙に書いた後、コインを持って奥に行った。そして数分後・・「お待たせしました」と銀行員が窓口で俺を呼んだ。俺は立ち上がり窓口の前に行くと「コインは計6枚で6万円になります」と銀行員は現金6万円と封筒が入っているキャッシュトレイを俺の前に出して更に「こちらに住所とお名前、フルネームでお願いします」と書類に署名を求められたので俺は、自分の名前と住所を書いて提出する。それから現金を封筒に入れ、銀行員にお礼を言って、俺は銀行を後にした。

 

 「マジで換金できたなw」と銀行の入口で待っていた東(あずま)が俺に話しかけてきた。「おう!マジだなw」と俺が返すと「今日は焼肉でも食べるか?」と笑顔で東(あずま)がはしゃいでいたら「タイフーン東(あずま)じゃねえか!」と誰かが言って、声のする方を俺達が見ると見知らぬ中年男だった。中年男は間髪入れず「おめぇよ、随分落ちぶれっちまったなw今、何をしてるんだ?」と言って東(あずま)に一方的に絡んでくる。「いや・・ぼちぼち稼いで暮らしてます・・へへ・・」と東(あずま)が愛想笑いをしてやり過ごそうしていたら「ぼちぼちね・・まあ俺としてはどうでも良いけどなw」と薄ら笑みをしながら言い殴って中年男は立ち去って行く。「おい!行こうぜ」と俺は沈んだ顔をした東(あずま)の手を引いてこの場所を後にした。タイフーン東(あずま)それは東(あずま)が競輪選手の現役時代に付けられていたニックネームだ。東(あずま)は競輪選手として脂がのり、賞金王に後一歩に届く所まで来ていた。この試合で勝てば賞金王になれるという時にそれは起きる。先頭集団の少し後ろを走っていた東(あずま)はラストスパートに向けて体力を温存していると、先頭集団の一人の選手の落車が切っ掛けに先頭集団全員が落車し、それに東(あずま)は巻き込まれ、結果は右足の靭帯が断裂して東(あずま)の競輪選手生命は終るのだった。

 

 俺達は土手で夕日を眺めながら黄昏ていた。「なあ・・俺達はさ・・これで終わるのかな?」と思わね現金収入でしゃいでいた先ほどまでとは打って変わって、東(あずま)は憂鬱な顔をしている。「どうかな・・うん、まあ、分からねえわ・・」と東(あずま)と同じくどん詰まりの人生を送っている俺も答えを出せずにいた。お互い長い沈黙が続き、俺は手持ち無沙汰でポケットを弄ると、巾着袋が出てきて、俺は中を確認した。一枚の紙があって、俺はそれを取り出して見る。「何だ、それ?」と東(あずま)が俺が取り出したボロボロの紙を見て尋ねてきた。「あー・・これは宝探しの案内だよ。白瀬財閥主催のオリエンテーションで、俺は父さんと行く予定だったけど、父さんに急に職場の呼び出しがあって結局行かなかったけどな」と俺は遥か昔の出来事に想いを馳せながら東(あずま)に説明する。「なあ、宝探しって中身はなんだ?」と東(あずま)が俺の昔話に少し食いつく。「確か・・中身はどんぐりコインだったはずだけど・・」と俺が答えると「まだ見つかってなくて、あったりするのかな?」と真意は不明だが東(あずま)はまた俺に質問をする。「どうかな・・多分見つかっていると思うけど」と俺が東(あずま)の質問攻めに押されながら言ったら「という事は現時点では正確には分からいという事だよな?」と東が確認し「まあ、そうだな」と俺が同意する。そして、「だったら確認しに行こうぜ!その案内は紙結市(かみゆいし)が月一回発行する紙結(かみゆい)お便りだよな?図書館に行けば調べる事も出来るよな?」と東(あずま)が更にグイグイとで俺に迫って来た。

 

 

 「えっ・・ちょっとな・・」と俺が東(あずま)の誘いに躊躇する。すると「俺達は何だ?」と急に東(あずま)が質問をしてきて「えっ・・宅配者?」と俺が困惑しながら答える。「ちげーよ!もっと違う言い方があるだろ?」と東(あずま)が更に答えを求めてきたので俺は考えたが皆目見当がつかなかったので「わ、わからない」と言う。ヤレヤレと言わんばかりの顔を東(あずま)がすると「自由業だよ自由業!俺達は好きな時に働いて、好きな時に休める。その強みを今、生かそうぜ!」と言いながら俺の両肩を持っていつになく真剣な顔で訴えてきた。東(あずま)のその前向きな考えは、眩しくも有り、魅力的に見えた俺は感化されて「そうだな・・俺達のどん詰まりの人生を変えるために己の強みをいかすべきだな!」と同意する。「よし!そうと決まれば、明日の朝一に図書館前に集合だ!」と同意を得た東(あずま)は言って、それに対して「おう!」と俺が応えてその日は解散した。翌朝・・俺が図書館に着くと東(あずま)はもう待っていた。「おう、おはよう!」と俺が挨拶すると「おはよう!治平(じへい)!じゃあ、行こうか!」と東(あずま)が言い、先陣を切って図書館に入って行く。俺は東(あずま)の後を追う形になって図書館に入ると、平日の朝なのか人はまばらで、それぞれ思い思いのスタイルで過ごしていた。俺達は受付に早速向かい「あの、すいません、過去の紙結(かみゆい)お便りを閲覧したいんですが出来ますか?」と俺は受付の女性司書に尋ねる。「はい、出来ますよ!こちらへ来てください」と女性司書は俺達を案内してきたので、彼女の後をついて行く。「こちらの端末に電子化した紙結(かみゆい)お便りがアーカイブ化されてますので創刊号から閲覧できまよ!どうぞ、ごゆっくり」と端末に案内し、俺達が軽く会釈すると女性司書は受付に戻った。

 

 「よし!早速始めようぜ!」と東(あずま)が意気揚々と言うと、俺はボロボロの紙を懐から取り出して、内容を確認する。宝探しの案内は2003年の4月の紙結(かみゆい)お便りで宝探しの結果は次号のお便りでお知らせしますと記されていた。「なるほど・・次の号は2003年5月と・・」と俺がマウスを操作してクリックして閲覧する。「ありゃ?」と俺が間の抜けた声を上げ「なんだよ、次の号に結果が載ってないじゃん」と東は不思議がって言った。(もしかしたら他の号に急遽載せたのかも知れない・・)と思い俺はその年の残りの紙結(かみゆい)お便りを閲覧したがやはり宝探しの結果は乗ってなかった。「これはどういう事だ?結局誰も見つけられ無かったからか?」と東(あずま)が頭を捻りながら言う。それに対して俺は「いや、見つけられ無かったなら、残念ながら発見者はいませんでしたと、載せても良いと思うよ」と言い、それを聞いた東(あずま)は「他の号をもっと見てみようぜ」と提案してきたので俺はそれに従って他の年をくまなく閲覧する。しかし、残念ながら見つからず・・それから俺は適当に色々な号をマウスでクリックしていた。東(あずま)も隣の端末で作業していたが、めぼしい情報が無く、目の輝きが失っていくのが分かる。(やはり・・夢を見過ぎたか・・)と俺が観念の思いを抱いた時、目の端に奇妙な文字が映り、良く見直すと、紙結(かみゆい)便りの表紙の右下の端にカタカナ一文字が記されていた。他の号も確認したがやはり記されていた・・・(もしや・・)と思い図書館のプリンターで紙結(かみゆい)便りの各号表紙だけをプリントした。「どうした?」と俺の突然の動きに東(あずま)が驚く。「もしかしたら、何か見つけたかも」と俺が東(あずま)に告げると、文字が記されされ始めた若い号から順に並べる・・すると、タカラサガシハオワッテナイ ウケツケニキケと読めた。

 

 「うおぉぉ!マジか?これっ、ヤバくね?」と秘密の暗号を暴いた興奮に東(アズマ)は俺の背中を叩いた。「痛っ、止めろ!とにかく受付に行こうぜ!」と謎を解いた興奮もあって、珍しく俺は先陣を切って、受付に向かった。「すいません!宝探しの件でお尋ねしたいんですけど?」と俺が勢いよく受付の女性司書に尋ねると「・・・・・」と沈黙が返ってきて「あれっ?」と俺は声を漏らし、不安に支配されて体から冷汗が出始める。ほんの数秒の沈黙の後「宝探しの件ですね、承知しました」と女性司書がようやく応えて奥へ消え「マジで合っていて良かったなw間違っていたら俺達通報されていたぜw」と東(あずま)が俺を茶化す。そして、俺が間違ってなかった事に胸をなで下していると女性司書が何やら紙を持って来て「どうぞ!幸運をお祈りします」と俺に手渡した。俺達は、女性司書にお礼を言い、図書館で騒ぐわけにも行かず、とりあえず図書館から出て改めて紙を二人で見るとこんな感じだった。

 

 

 「なんか・・子供のオリエンテーションに使う奴みたいだな・・」と東(あずま)がボヤき「仕方がないよ、元々本当にそうだったんだからさ」と俺が返す。すると「まっ!そうれはそうだな」と東(あずま)が応えた。貰った紙を隅から隅まで見て俺は「これって・・紙結山(かみゆいさん)だよな?」と東(あずま)に確認し「ああ!そうだと思うぜ!子供の頃に遠足で行ったっけなー、懐かしいぜ」と東(あずま)は俺の確認にすかさず肯定する。紙結山(かみゆいさん)とは紙結市(かみゆいし)の北側に位置する低山で、お年寄りから幼い子供まで楽しめる人気のスポットだ。「よしっ!これで次に進めるな!早速明日に紙結山(かみゆいさん)に行こうぜ!」と東(あずま)は、はやる気持ちを抑えきれないようだった。しかし、俺も同じ気持ちで、ここまで来たらには、早く宝を見つけたいという思いは、東(あずま)に負けないつもりだ。「明日は、紙結山に行って宝を見つけようぜ!」という東(あずま)の鼓舞に乗って「おう!」と俺は言い、明日の準備のため解散した。

 

 自宅で美月がもくもくと晩御飯を食べてるのをよそに俺は、明日の準備をしていた。美月に見つかると面倒なので俺は出来るだけ、物音を出さない様に細心の注意を払っている時「これ、何の準備してるの?」と美月が食事を終えて、いつの間にか俺の後ろから様子を見ている。「えっ・・ちょっと、明日遠出するから、その準備だよ」と俺はたどたどしく言い訳をする。しかし、「えっ?何処に?」と普段、俺の行動に干渉をしない美月が何故かこの日ばかりは干渉をしてきて更に「私も一緒に行って良い?」とダメ押しとばかりに俺に詰め寄って来た。「と、友達と一緒に行くから駄目だよw」と俺は愛想笑いをしながら美月を説得しようと試みる。すると「友達って、東(あずま)くん?治平(じへい)の友達って東(あずま)君しかいないよね?」と母さんと同じく美月も俺の触れて欲しくない事に躊躇なく触れてくる。いつもやられてばかりではないと心を奮い立たせて「そんな事は・・」と俺が言いかけた時、美月は何処かに電話をする。「あっ!東(あずま)君?私!美月!明日私も一緒に行くから!うん、じゃあね!」と美月が通話を終えると、顔は笑っているが目がまるで笑っていない状態で「でっ?何をしているの?」と美月の尋問が始まった。

 

 翌朝、俺達は美月の車で移動して、紙結山(かみゆいさん)の入口におろしたてのハイキングルックでいた。俺と美月の唯一の共通点は形から入る事で、現在の服装は昨日、アウトドア専門店にて、二人で買い揃えた物だ。俺達が辺りを見回すと東(あずま)はまだ到着してないようだった。「遅いねー」と美月が少し苛立ち始めていたので「ちょっと早く来すぎたんだよ」と俺がなだめる。それから数分後に三輪バイクがやってきて渋い登山家スタイルの東(あずま)が降りてこちらに向かって来た。「おはよう!美月ちゃん!今日は楽しもうね!」と東が無理やり明るく振舞うと「おはよう!こちらこそよろしくね!宝探し頑張ろうね!」と美月が先制パンチとばかりに全てが露呈している事を東(あずま)に告げる。「ははっ・・頑張ろうね!」と顔を引きつらせながら俺の方を一瞥するとギロッと睨みつける。それから、俺達は黙々と山道を登っていた。先頭を歩いていると、急に誰かが俺の首に手を回してくる。俺は驚きながら手の主を見ると東(あずま)だった。ヒソヒソ声で東(あずま)が「おい!何で美月ちゃんも来るんだよ!何で全てを話した!」と俺に問い詰めてきて「すまん・・尋問に逆らうことが出来なかった・・」と俺の情けない告白をする。それを聞いた東(あずま)は「だから言っただろ!女に尻に敷かれるなって!」と声のボリュームを最大限に落として激高する。「でっ?分け前とかどうするんだ?」と恐らく東(あずま)が一番聞きたい事で肝心な事を尋ねてきたので俺は「それは大丈夫、お前の取り分は変わらないから」と答える。「えっ?お前は?」と東(あずま)が再び尋ねてきて「うん・・全部二人の将来のために彼女が管理するって・・」と俺が涙目で語ると「お前・・本当に不器用な奴だな・・全く・・俺の胸に飛び込んで来い!」と東(あずま)が同情しながら猿芝居を仕掛けて来たので「あずまー俺っ、俺っ、本当は新しいバイクが欲しかったんだー」と東(あずま)の胸に飛び込んで俺が泣く真似をし「おーよし、よし、可哀そうな子だな、誰かバイクを買ってくれる人がいないかねー」と二人で美月を見ると「ウッザ!!わかったわよ!バイクだけよ!後は貯金だからね!猿芝居は良いから先を急ぎましょ!」と美月は先陣を切って先へ進んだ。

 

 紙結神社(かみゆいじんじゃ)を通り過ぎて、紙結(かみゆい)キャンプ場に着いた俺達は、宝に迫る鍵である、もう一つの紙を貰いに管理棟へと続く小道を進んでいると、「ははっw何だあれw」と東(あずま)が突然笑い始める。東が見ている方向に目を向けると、探検隊の服、もといベージュのサファリジャケットを着て、同じくベージュのピスヘルメットを被っている、親子らしき二人が小道の脇でワイワイと何かをやっていた。「別にいいじゃない!微笑ましいわ!」とゲラゲラ笑っている東(あずま)を美月がたしなめた。親子らしき二人の横を俺達が通り過ぎようとした時「イツキ!これは何ていうお花?」と三つ編み女の子が尋ねている。その声とイツキと言う名前に俺は覚えがあった。「はい、お嬢様、黄花ノコギリソウです。これには止血作用と抗炎症作用がある、とても役に立つお花なんですよ。でも、私はこちらの方が好きですね・・このスイセンと言う植物は僅か10グラムで人を死に至る事がでくるんですよ・・フフフ」とイツキと呼ばれた女性は不気味な笑みを浮かべる。「もう!直ぐ怖い話をする!もう嫌いです!」と三つ編みの女の子が走り出して、美月の足にぶつかって盛大にコケて「大丈夫?」と美月がすかさず三つ編みの女の子を起こす。三つ編みの女の子は泣き声こそ上げなかったが瞳には大粒の涙が溜まっていた。美月が三つ編みの女の子の膝に付いた土を払っていると「お嬢様!ご無事ですか?」とイツキと呼ばれた女性が駆け寄ると、三つ編みの女の子の瞳から遂に涙がぽろぽろと流れ落ちてきて、イツキと呼ばれた女性はそれをハンカチで拭う。

 

 「はいっ!お嬢様は強い子なのですから、笑いましょう」と涙をぬぐい終わったイツキと呼ばれた女性がそう言って三つ編みの女の子をぎゅーと抱きしめた。「うん・・・イツキ」と三つ編みの女の子が猫の愛情表現をするように、顔をぐりぐりとイツキと呼ばれた女性の胸の辺り擦りつけていると、突如、俺の方へ向いて「あっ!宅配の人です!」と言う。その事で俺と言う存在に気が付いたイツキと呼ばれた女性は「これは、これは、その節はお世話になりました。ひょんな所でお会いしますね」と挨拶をしてきたので「こちらこそお世話になっております、いやーこんな場所で会う何て奇遇ですね!連れが迷惑をかけて申し訳ありません」と俺は返す。「いえ、いえ、いきなり走ってしまったお嬢様に落ち度がありますから・・まだ名乗ってませんね、私、音無樹(おとなしいつき)と申します」と音無樹(おとなしいつき)は名乗った。流石に相手が名乗っからにはこちらも名乗らない訳にも行かず、俺は小鳥遊治平(たかなしじへい)です。この子が真中美月(まなかみつき)で、こっちのガッチリした男はが東(あずま)ですと俺は皆を樹(いつき)さんに紹介をすると、彼女に対して美月と東(あずま)は軽く会釈をする。

 

 樹(いつき)さんは女の子の紹介をしなかったが、その理由を俺は分かっていた。「あなた・・小鳥遊(たかなし)家の人間だったんですね・・」と突然、樹(いつき)さんが俺の事をなめるようね視線で言う。「えっ・・それが何ですか?」と俺は樹さんに尋ねる。「フフフ・・気にしないで下さい」とはぐらかされ、そして、話を切り替えて「皆さんはどちらかに行かれる予定ではなかったんですか?」と俺達の本来の目的を思い出させてくれた。「そうだぜ!受付に行って貰わないと!」とはっとした表情で東(あずま)が言って「じゃあね!」と美月が言いながら三つ編みの女の子の頭を撫でると、嬉しそうにしていた。俺達は樹(いつき)さん達に挨拶を済ませ、キャンプ場の受付に急いだ。目的地に着くと丸太が組まれたロッジ風の建物が現れた。中に入るとまるでホテルのロビーの様な内装で、ソファーや机が並んでいる。実はキャンプ場の管理棟はホテルでも有るのは、地元人間なら大抵知っているのだが、その宿泊料金は都心の一流ホテルと同格なために、一般紙結市民(いっぱんかみゆいしみん)はおいそれと利用出来ない。このホテルに泊まって、余暇を過ごす人は、経済的に余裕がある人や成功した人の証拠で、紙結市民(かみゆいしみん)にとって一種のステータスになっている。「ねぇ♡治平(じへい)♡お宝が見つかったらこのホテルの最高級スイートに泊まろうよ♡」と美月がほほを染めながら俺に尋ねてきて「別に良いけど、お宝次第だね」と俺が返す。俺達のやり取りを聞いていた東は「良いな!それ!よっしゃ!宝が見つかったら、いの一番で俺も泊まるぜ!」と俺達の会話に強引に乗っかってきて、「何で東(あずま)君も来るのよ!」と美月が不満を漏らし、「別に良いじゃねえか!」と東(あずま)が抗議して不毛な争いが続きそうな気配を察知した俺は「はい!そこまで!続きはお宝を見つけてからね」と会話を終わらせると俺達はいつの間にか受付の前まで来ていた。「すいません!宝探しをしている者なんですが、宝探しに必要なもう一枚を下さい」と俺が木こりの様な髭もじゃでチェックのシャツで袖をまくって、デニムのパンツを履いている男に話しかける。すると、「なるほど・・あんた達、探検者か?パスワードを言ってくれ」と野太い声で応えた。「はあ?、探検者?何言ってんだ!このオッサンは?パスワードってなんだよ!」と東(あずま)が興奮しながら言って、美月は目をパチクリしてぽかーんとする。

 

 「オッサンでは無い!工藤と言う者だ。もう一度言うがパスワードを答えろ」と工藤が再びパスワードを求める。(パスワード?知らないぞ?順序を間違えて来たか?)と俺の思考はグルグルと堂々巡りを始めて答えを求める事は困難になっていて、図書館でもらった紙を眺めても全く分からなかった。「くそっ、貸せ」と東(あずま)が強引に俺から紙を奪うと目を皿の様にして隅から隅まで見始める・・ピクっと体が一瞬動き「やっぱよw俺は持っているんだよなw」と笑みを浮かべる。そして「大船に乗ったつもりで、俺に任せな!」と東(あずま)はドヤ顔しながら工藤の前に立って「よーオッサンwパスワードを言わせてもらうぜw」と更に挑発的な態度で言い「オッサンでは無い!工藤だパスワードを答えろ!」と再び同じセリフを工藤が吐いて「Let's try!」と東(あずま)が言う。「おお!、一流の探検者ようだな。お主達だったら秘宝を探し当てる事が出来るだろう!受け取れ!」と工藤が一枚の紙を東(あずま)に渡してきた。

 

 東(あずま)は受け取った紙を俺に渡してきて「どうだwすげーだろw」と自慢をしてきたので「ああ!凄いよ!お前がいなかったら多分無理だったよ」と俺は労う。「何でパスワードがLet's try!なの?」と美月が東(あずまに尋ねる。「あれwあれれw知りたい?」と東(あずま)が勝ち誇った態度で美月を挑発して「何よ!教えなさいよ!」と美月が若干イラつきながらも東(あずま)に答えを要求する。「しょーがねーなーwこのイラストの女の子の胸の辺りをよーく見てみな!」と東がドヤ顔で図書館で入手した紙に記されていた女の子のイラストを指して、美月が顔を近づけてそれを凝視した。「胸の辺り?んー、あっ!これって模様じゃ無い!P/Wって書いてある!なーんだ簡単じゃないwこれなら東(あずま)君でもわかるねw」と美月が答えを知った瞬間に東(あずま)に対して謎のマウントとって、東は「その簡単なものを分からなかったじゃねえか・・」と納得が行かない顔した。俺は二人のやり取りをよそに、東(あずま)が獲得したもう一つ紙をひっくり返したりして触っていると、妙な感触がしたのでよーく見るとこれは、羊の皮で出来た羊皮紙だった。「うへぇ!羊の皮を始めて触ったわw」と俺がはしゃいでいると「工藤はこの冒険を盛り上げるために苦労してそれを作った!喜んでもらえて嬉しい」と受付の工藤が突然、話しかけてきて「そ、そうなんですね・・」と俺が少しぎこちない受け答えして、改めて羊皮紙を机の上に広げて皆で見た。

 

 羊皮紙にはダイダラボッチを倒したサムライの足跡を追って数字を探せと書いていた。「ダイダラボッチって、あのダイダラボッチ?」と美月が羊皮紙を見ながら言う。「俺も良く知らないな・・この山で暴れてサムライに追い払われたってぐらいし知らないから・・足跡何て知らないぞ、東(あずま)は知っているか?」と俺が東に話を振る。「俺も知らねぇよw知る訳ないだろうw」と恥じらいも無く答え「美月は?」と最後の頼みとばかりに俺が尋ねると「ごめんw私、歴史全然だめなのw」とあえなく頼みの綱が絶たれた。(まいったな・・誰も知らないと進めようが無いぞ・・)と完全に暗礁に乗り上げた状態になっていた時「あら、あら、まだこんな所でうろついていたんですね」と誰かが俺達に話しかけてきた。それは音無樹(おとなしいつき)だった。「あれっ?あの子は?」と美月が樹(いつき)さんに尋ねると「お嬢様は客室のお部屋でお休みになられています」と答えて、俺達が見ていた羊皮紙を見る。「紙結山に伝わる、サムライの伝承ですか・・どうやらお三方は分からないようですねw」と樹(いつき)さんが俺達を嘲笑しながら更に「良かったら教えて差し上げましょうか?」と提案してきた。

 

 「ほ、本当ですか?樹(いつき)さん!俺達に是非教えて下さい!」と渡りに船な樹(いつき)さんの提案に俺は飛びつく。「わかりました、正し条件があります」と樹(いつき)さんが条件をちらつかせて来て、雲行きが怪しくなってきた。美月が俺の耳元まで顔を寄せて小声で「治平(じへい)あんた何かやった?」と樹(いつき)さんの態度が急に変わった事に原因を俺に聞いてくる。俺も彼女の態度が急に変わった事は感じていたが彼女との接点は宅配の時ぐらいで皆目見当がつかなかった。「分からないよ」と俺が小声で美月に返す。「どうしました?相談は終わりましたか?」と樹(いつき)さんが再度聞いてたので「条件とは?」と俺が戦々恐々しながら尋ねると「私、いや、私達に謝りなさい」と樹(いつき)さんは言った。「はっ?いや、いや、意味が分かりませんよ!俺にもわかるように説明をしてください!」と俺が樹(いつき)さんに説明を求める。「何も知らないのですね・・」と樹(いつき)さんが俺に対して失望した態度をしながら、東(あずま)と美月を一瞥して「まあ、この二人なら問題無いでしょう」と言った。「名無し七衆ってご存じですか?」と樹さんが尋ねてきたので「いや、知りません」と俺は答える。樹さんが深いため息をして「名無し七人衆とは戦国時代から白瀬家に仕えている七つの一族を指してます」と言い、立て続けに「その一族とは私の音無家(おとなしけ)、あなたの小鳥遊家(たかなしけ)、雨無家(あめなし)、風無家(かぜなしけ)、傘無家(かさなしけ)、門無家(かどなしけ)、釜無家(かまなしけ)の事ですよ」と衝撃的な話をした樹(いつき)さんに対して「ちょっと待って下さい、俺、全く知らないですよ!そんな事」と俺が動揺しながら言うと「全く、小鳥遊(たかなし)の人間はどこまでも恥知らずですね」とため息交じりに俺を見下した目で樹(いつき)さんが言う。

 

 そして、樹(いつき)さんの話は続き「なんであなたの家だけ無の字がついてないと思います?」と突然俺に問題を仕掛けてきたが「いや・・さあ?」と俺はまともに答える事は出来ず、それを見て樹(いつき)さんが首を横に振ってヤレヤレとばかりに「あなたの家、小鳥遊家(たかなし)は元々は高無(たかなし)という名前でした。明治に入ってあなたの高無家は突如、誉ある名無し七衆の使命を放棄して離脱、そして、明治政府が発行した平民苗字必称義務令(へいみんみょうじひっしょうぎむれい)に乗じて小鳥遊(たかなし)と読み方が一緒の名前に改名したのですよ」と俺と樹(いつき)さんの因縁の大まかな話してくれた。「知らなかった・・うちの家がそんな事情を抱えている家なんて・・」と混乱をきたしている俺を見た樹(いつき)さんが勝機とばかりに「さあ!全てを知りましね!名無し七衆の代表として私があなたの土下座を所望します!さあ!土下座しなさいな!そしたらサムライの伝承お教えしますよ!」と畳みかけてきた時「ちょっと待ちな!」と美月が割って入って来た。

 

「さっきから黙って聞いていたけど、治平(じへい)は何も悪くないじゃん!そんな大昔の事をネチネチと頭おかしいんじゃない!」と美月は完璧に頭に血が上っている状態だった。(あっ・・まずい)と俺は思い、すかさず「美月、落ち着けって、こんな所で暴れても皆、悲しむだけだから!」と俺が美月をなだめていると「ふっwさすが小鳥遊(たかなし)の縁者ですねw野良犬みたいw」と樹(いつき)さんが挑発する。「あ?何て言った?」と美月は怒髪天を突く状態になり、「美月!よせ!やめろ!」と俺が美月に強めの言葉で言って押さえつける。「お前は・・黙っていろ!」と美月は背負い投げして受付の工藤の方へ俺は投げ飛ばされた。俺は受付のカウンターの中で工藤ともみくちゃになって倒れこんで「す、すいません!大丈夫ですか?」と工藤に安否を確認する。「工藤は頑丈だから問題ない」と言ったのを聞いて、ひとまず俺は安心する。「おい!ヤベーよ!美月ちゃんがああなったら、もうだれも止められねぇぞ!」と東(あずま)が俺に駆け寄って言ってきて、俺と一緒の工藤を見つけると「そうだ!あんた!そんなガタイが良いなら止めてくれよ!」と工藤に懇願する。しかし、「工藤はこう見えてもインドア派だから無理だ」と固辞して「あんたのその恰好と体格はどう見てもアウトドア派じゃねえか!」と東(あずま)が突っ込む。カウンターから少し頭を出して様子を見ると二人はにらみ合っていてどちらも戦闘態勢になっていた。(ナムサン!どうか死人はでませんように!)と俺が神頼みをした時に「工藤はこう見えても賢明な男だ手は打っている」と工藤が呟いて俺と東(あずま)が顔を見合わせた時「二人共やめい!」と男の声が管理棟のロビーに響いた。

 

 俺達が恐る恐る受付のカウンターから顔を出すと長袖のアロハシャツにデニムのパンツの老人がいた。「セイさん?なんで?ここにいるんですか?」と俺が驚きながら顔見知りの老人に声をかけ、セイさんは俺を一瞥して手を振って美月達の元へ行く。「旦那様!?何故ここに!?」と樹(いつき)さんは凄く困惑をしたが、何かを察したのか「工藤!お前か!」と工藤を睨みつける。「工藤は仕事を思い出した」と工藤はそう言って何処かへ退散した。(旦那様?確かに樹(いつき)さんはそう言った・・という事はセイさんの正体は・・)と俺が思考を巡らせている時、「樹(いつき)!散々話し合ったろう!」と樹さんをセイさんが叱責した。「我が主の命でも、これは了承しかねます!この裏切り者の一族を放置するのですか?」と樹(いつき)さんが激高しながら言う。セイさんはため息をつくと「現当主、白瀬清蔵の命を発する。樹(いつき)、お前はこの3人の手伝いをしろ!」と形式ばった命令が樹(いつき)さんに発令されると「何故、私が!」と主の命に不服な樹(いつき)さんは尚も食い下がる。「不服か?主の命を逆らうのか?そんなお前が彼に言える義理があるのか?」と白瀬清蔵が矢継ぎ早に樹(いつき)さんを責め立てたら「くっ・・承知しました」と渋々、了承させた。

 

 「さて、君達には迷惑を掛けたな」と白瀬清蔵は俺達に頭を下げた。「セイさんが白瀬清蔵?マジかよ・・」と東(あずま)は驚き「はは・・治平(じへい)って偉い人の知り合いがいるのね」と美月は先程の激高した状態からすっかり落ち着いていた。この宝探しの切っ掛けはセイさん事、白瀬清蔵だった。つまり、この宝探しの仕掛け人であるこの人が、このイレギュラーの事態で俺達の前に現れてしまったのは予定外のはずで、その事から俺は一抹の不安が生じ「俺達は宝探しを続けて良いですか?」と俺が白瀬清蔵に尋ねる。「もちろんだ!続けてくれて構わない、見つけた宝は君達の者だ」と惜しげもなく了承してくれた。一抹の不安が解消された俺は「よしっ!少し回り道をしてしまったが宝探しをはじめるぞ!」と号令をかけると「おう!」と美月と東(あずま)が従った。「早速で悪いんだが樹(いつき)さん!サムライの伝承を教えてください」と俺が樹(いつき)さんに頼むと「・・承知しました」と苦虫を潰した顔で了承して話始める。

 

 「むかし、むかし、紙結山(かみゆいさん)にダイダラボッチという巨人が住んでました。巨人は山から下りてくる度に田畑を荒らして食べ物を奪って行くので村人は困っていました。そんなある日、困っている村人を見かねた遊歴のサムライが退治を申し出ます。村人達はサムライに望みをかけて送り出しました。サムライは早速ダイダラボッチの寝床がある紙結山(かみゆいさん)を登って行きました。山を登っていると神社があったので、そこで先勝祈願をして、さらに山を登りました。山を登り続けると開けた場所に出て、何と!ダイダラボッチがいびきを欠いて寝ているじゃありませんか!早速サムライは刀を抜いて名乗りました。サムライの声で目を覚まし、ダイダラボッチはサムライをひと睨みすると雄たけびを上げて、戦いの火蓋切って落とされました。戦いは三日三晩続いて遂にサムライの一太刀がダイダラボッチの顔を切り裂き、敵わないと思ったダイダラボッチは山の頂上の方へ逃げ出しました。頂上まで追い詰められたダイダラボッチは慌てふためいて、懐から大きな鍵を落としました。サムライがダイダラボッチに追いつくと刀を収めました。その様子を見たダイダラボッチは「何故刀を収めた?」と尋ねます。サムライは「拙者は殺生は好まぬ、この地から去るなら見逃してやろう」と言ったサムライにダイダラボッチは泣きながら感謝して立ち去りました。サムライはその事を村人に報告するといずこかへ行き、それ以来ダイダラボッチを見かける事は無く、村人達は安心して暮らしましたとさ」

 

 樹(いつき)さんが昔話を終えると、俺達は感嘆の声を上げて拍手をした。俺達4人は二枚の紙を見ながら思案し始める。「紙結山(かみゆいさん)限定の足跡って事だよね」と美月が俺に確認してきて「ああ、それは間違いないと思う」と俺が同意する。「じゃあ、図書館で貰った紙に記されている三か所じゃね?」と東が言った。二枚の紙を見比べながら思案をしていた樹(いつき)さんは「その方向性でよろしいと私は思います」と東(あずま)の案に同調する。「じゃあ、紙に記されている三つのスポットに数字を探すという事でいいな?」と俺が皆んなに同意を求めると一同は頷いて次の目的が決まった。俺達が管理棟を出ると日が傾いていた。「スポットが指定してある紙結神社(かみゆいじんじゃ)と鍵岩は俺と東(あずま)で手分けして捜索するから、キャンプ場は範囲を指定していて広いのでので美月と樹(いつき)さん2人で協力して探して」と俺が采配をとると、白瀬清蔵が管理棟から出てきて「宝まで後もう少しだ!最後まで頑張れよ!幸運を!」と言って管理棟の中に消えた。別れ際、彼女達の張り付いた笑顔が気になるが、日が傾いてきて行動できる時間が迫って来ていて、選択の余地がなかった。小道を戻って山道に出ると東(あずま)が「おい、あの2人を一緒にして大丈夫か?」と俺に心配そうに尋ねてきて「確かに心配だけど、女性を1人で山中を行動させられないし、白瀬清蔵の目が届くキャンプ場なら樹(いつき)さんの暴走が起き難いと思うから大丈夫だと思う」と俺が答える。「おお、いつになく冷静な分析だなwなら、大丈夫そうだw鍵岩の方はタイフーン東(あずま)に任せろ!」と東(あずま)は鍵岩の方へ登って行った。

 

 紙結神社に着いて、俺は早速数字を見つけるため、辺りを捜索するとあっさり見つかる。賽銭箱の寄贈名に白瀬清蔵と書かれていて、賽銭箱の裏にわざとらしく34と数字が彫られていた。俺はスマホで数字が見つかった事を皆に連絡すると程なくして皆も数字を発見した連絡が来た。あっさりと数字を全て発見して順調なペースで事が進んでいる事に俺は浮かれながら集合場所に向かう。集合場所では3人がもう既に待っていて、俺が手を振ると、何故か東(あずま)の様子がおかしい。皆の元に着くとその原因がすぐ分かる。美月と樹(いつき)さんの顔が青あざだらけで美月に至っては鼻に詰め物をして鼻血を止めていた。「・・おい、何があった?」と俺が問い詰めると「別に?私達はじっくり話し合っただけだよね!」と美月がそう言いながら樹(いつき)さんに話を振ると「そうですよ、私達はじっくり濃密に話し合っただけです」と樹(いつき)さんも話を合わせて二人はにっこり笑った。「こいつ等、アマゾネスだ」と東(あずま)が俺に近づきそう囁く。「二人の喧嘩を見たのか?」と俺が東に尋ねると「最後の方だけどな・・あんな喧嘩初めて見たぜ」と恐怖を滲ませながら言った。「あんなバトル中々見れないと工藤は思う」と突然俺達に話しかけてきた工藤の手には応急キットが握られていた。

 

 「まったく・・もう一度確認するけど、お二人はもう、わだかまりは無いんだよね?」と二人に確認すると美月は「無いよ!」と言い「美月さんにはありません、しかし、小鳥遊(たかなし)の人間であるあなたにはあります」と樹(いつき)さんは俺には依然として敵意をむき出しだった。「はい、はい、わかりましたよ!樹(いつき)さんは宝探しが終わるまで休戦という事でいいですか?」とこの先、絡まれて宝探しの障害になる事を避けたい俺は樹さんの言質を取るために確認をする。「承知しました、宝探しが終わるまで休戦をします」と樹(いつき)さん了承してくれた時「ふんっ!やっと血が止まった」と美月が鼻の詰め物を取って工藤から渡されたテッシュで鼻をかんでいた。とりあえず俺は工藤にロビーで休む事を許可してもらいロビーで机を挟み「では、気を取り直して皆が見つけた数字をこの紙に書いてくれ!」と俺が皆に促す。

 

 

 「32、91、34、この数字は何だ?」と俺が呟き、「緯度経度ではありませんね・・」と樹(いつき)さん首を傾げ、「だーめだ!何にも頭に浮かばねw」とへらへら笑いながら東(あずま)が言い「あっ!!わかった!!」と美月が叫んだ。「えっ!?」と俺達が驚き「これって、ポケベル文字だよ!看護師の先輩が携帯が無い時代はこれで急患や欠勤が出て急遽出勤して欲しい時に呼び出したって言っていたよ!」と言い「でかしたぞ!美月!でっ?何て読むんだ?」と俺が美月に催促すると「ちょっと待って・・11が”ア”だから・・32はシ、91はラ、34はセ、だからシラセ?そう、シラセだよ!」と美月は見事に謎を解き明かした。ついに最後の謎を解き明かした俺達は歓喜していたが「なあ?シラセと言う文字が分かったのは良いけどよー、肝心お宝は何処にあるんだ?」と東(あずま)が言う。「確かに・・この言葉が分かっていても、肝心の宝の場所を指していない・・まさかシラセがという言葉が宝って落ちは無いよね?」と俺が弱音を漏らすと「シラセ・・何て高貴で神々しい言葉なんでしょう、正にお宝に相応しいです!」とうっとりしながら樹(いつき)さんが言い「うそー?シラセと言う言葉がお宝?山まで登って来たのにー!最悪!」と美月はぼやいた。

 

 「大変だ!大変だ!探検者の皆さん!12番バンガローに異変が起こりました!どうか!調査をお願いします!」と工藤が突然俺達にまた話しかけてきた。「わっ?びっくりしたーオジサンがまた何か始めた!」と美月がギョッとして言う。「ゲームみたいにフラグ式かよw」と東が爆笑しながら言ったが、俺や美月はゲームを殆どやらないので意味が分からなかった。「東(あずま)?どういう事だ?」と俺が東(あずま)に尋ねると、「簡単に言うとだな、12番バンガローに行けば良いって事だぜ!」と満面の笑みで答える。そして、目標が定まった俺達は工藤に挨拶を済ませ、12番バンガローに向かった。バンガローの前まで来ると俺はゆっくりとドアノブに手をかけて捻る。ドアは何の抵抗も無く静かに開いた。バンガローの中は薄暗く、床に埃が積もって俺達が入ると、宙に舞う。見た所、何年も人が入った形跡がなかった。「ぶへ、ごほっ!ちょっと!何なのよ!埃だらけじゃない!」と美月が不満を漏らして、「宝は何処だ!宝ちゃん出ておいでー!」と東(あずま)が辺りを探索し始めた。

 

 俺が奥に何か大きな塊を発見して「おい!何か大きな物が奥にあるぞ」と言った時、ぱっと電気が点いた。樹(いつき)さんが照明を点けてくれたのだ。照明が点いて視界が広がり、奥を見えると大きな宝箱が鎮座して、積もっている埃の量からオリエンテーションから全く手付かずと言うのが分かる。「おお!宝箱だぜ!さあ!開けようぜ!」と東がテンションは最高潮に達して言い「早く!早く!開けよう!」と美月がギラギラとした目で言う。「おう!待っていろ!開けてやるぜ」と俺も興奮ながら宝箱の錠前に手を掛ける。錠前はダイヤル式でカタカナ三文字を入れる形だった。俺は迷わずシラセとなる様にダイヤルを回すとガチャっと音がして錠前が取れ、俺はゆっくりと宝箱を開けるとそこには、数えきれない程のどんぐりコインが入っていた!「うおおお!マジか!何枚あるんだ!」と東(あずま)が大はしゃぎをして「うひゃひゃひゃ!こんなにあるんならwあれも買ってwこれも買ってw」と美月は目が完全に¥マークがになっている。俺も興奮はしていたがやり遂げたという達成感が強くて、そちらに酔いしれていた。「はっはっはっ!おめでとう!探検者諸君!」と急に俺達の後ろから聞き覚えがある声がする。振り返ると、白瀬清蔵と先程から妙に静かと思っていが音無樹(おとなしいつき)も横にいた。

 

 「セイさん、いや!白瀬清蔵さん!このコインは俺達が貰ってもいいんでよね?」と俺が今回の主催者に最後の確認をした。「ああ!いいとも!受け取るがいい!正し、換金はして貰う」と答えて「換金?まあ、初めからそのつもりですけどね・・何故です?何故換金が必須なんですか?」と俺はどんぐりコインに抱いていた疑問に繋がると踏んで更に踏み込んて尋ねる。「君はこの価値のない鉄の金メッキを、何故買い取るかを聞きたいんだね?」と白瀬清蔵がコインの真相の開示するかを求めてきたので「はい!お願いします」と俺が言う。「うーん・・どうしようかな・・まっいっか!」と少し悩んだ末に白瀬清蔵はコインの真相を語る事を決心した様だ。「このコインはね・・鉄の金メッキじゃないんだよ」と白瀬清蔵が言う。「えっ?もしかして純金!?」と美月が完璧に欲望に飲まれた目で言い「悪いけど、純金じゃないんだな、プラチナ、このコインはプラチナを金メッキした代物なんだよ!」と白瀬瀬蔵は真相を話す。「ぷ、ぷ、ぷ、プラチナってあの結婚指輪に使うプラチナ!マジか!」と東(あずま)が今まで縁がなかった大量の代物に完璧にパニックになっている。

 

 「あー、何かそちらのお二人は凄く興奮しているようだけど話を続けて良いかな?」と白瀬清蔵が話の再開を俺に委ねたので「あっ・・すいません!この二人は無視して下さい」と続ける事を了承する。「君も知っている通り、白瀬財閥は様々な企業を持っている。その内の一つがグループ企業の金属加工を受け持ってるんだけど。どんぐりコインもそこに発注した訳。だけどねー手違いが合ってねー、自動車の排気ガスを抑えるプラチナ触媒用のプラチナをどんぐりコインに使ってしまったんだよw」と衝撃の真相が明かされて「あの・・清蔵さん・・それって大丈夫なんですか?」とおこがましくも白瀬清蔵の心配をすると「全く!厚顔無恥なんですね!小鳥遊家(たかなしけ)の人間は!旦那様がその程度で窮地に立たされるとお思いですか?」樹(いつき)さんが割って入ってくる。「樹(いつき)!もういい」と白瀬清蔵が樹(いつき)をたしなめると「気付くのがちょっと遅かったら、ヤバかったけどねw各種申請書類で変更を申請して、然るべき手続きをしているから大丈夫だよw」と屈託のない笑顔で答えた。

 

 「じゃあ、次は私から君達に質問をしよう」と白瀬清蔵が俺達に言ってきたので「どうぞ」と俺が代表で了承する。「その宝箱にはおおよそ4万枚のどんぐりコインがある。一人当たりの取り分は税金を差し引いたとしても一億円以上になって、億単位のお金が君達の懐に入る訳だが・・君達はこれからどうする?」と白瀬清蔵が想像もしてなかった質問が来た。「そんなの決まってんじゃん!遊んで暮らすに決まっているぜw」と東(あずま)が笑いながら言うと「一億円って、おじさんの経験上、結構早く無くなるよ?」とすかさず白瀬清蔵が東(あずま)に突っ込むと「がは・・・は、本当ですか?」と今まで見た事無い真剣な顔に東(あずま)はなり「わ、私はちょっと使って後は貯金をするもの、仕事はそのまま続けるつもりだから!」と直前まで絶対思ってない事を美月がたどたどしく言うと「貯金かー可愛いねwでもねーお金を貯めて、いつ使うの?然るべき時に使ってこそのお金だよw」と白瀬清蔵は美月にも容赦ない言葉を浴びせて「あ、ありますよ!ほらっ!ほらっ!あれ!あーーもう分んない!」と美月はギブアップした。

 

 「さて、最後は君だ小鳥遊治平(たかなしじへい)君!君は何をする?」と白瀬清蔵が俺を見てきた。「俺は・・最初は人生を変えたくて、宝探しをしました・・お金は絶対欲しいです!あなたが何を言っても絶対欲しいです!だけど・・俺は変えたい!自分を変えたいんです!それはお金では絶対できない事です」と俺が独白する様に話す。それに対して「つまり?」と白瀬清蔵が話を明確化を求める。「お金が入っても俺は・・納得ができる自分になるまで、自分を変える努力を止めません!絶対止めない!」と俺はありのままの思った事を言い「治平(じへい)!お前時々凄い事言うなw俺も勝負事で今まで生きて来たけど、あの場所はやっぱり俺の生きる場所だったんだよな!俺も探すぜ!今の俺が勝負できる場所をよ!」と東(あずま)が俺の話に共感して自分の生き方を思い出したようだった。「わ、私は・・二人の様に明確に生き方がある訳じゃ無いけど・・でも!治平(じへい)と一緒に生きたい!だから・・私はそのためにお金を使わ!」と美月は普段だったら顔が真っ赤になるような愛の告白をした。

 

 「よろしい!三人とも合格だ!」と白瀬清蔵が俺達に向けて祝福の言葉を向ける。「ご、合格?失格だったら没収だったんですか?」と俺が焦りながら尋ねると「別に失格しても渡していたよwただね・・若者が一気にお金が入ると自分を見失って破滅する人が結構いるんだよね・・折角さ、関わったんだからさ・・その人が不幸になるのは見たくないじゃない、それだけw君達なら大丈夫だと思うよ」とニッコリしながら白瀬清蔵が答えた。「最後にまだ聞きたい事がある?」と白瀬清蔵が最後の質問を受け付けてきたので「俺達が子供の頃に企画されたオリエンテーションで、何が起きたんですか?宝が何で手付かず何ですか?」と宝箱を見た時から引っかかっていたので俺は尋ねたら「それ聞いちゃう?本当に聞いちゃう?」と白瀬清蔵が確認をする。「えっ・・だから、教えて下さいよ!」と俺が答えを求めると「誰も、来なかった」とぼそっと白瀬清蔵が言う。「えっ?・・えっ?」と俺が困惑していると「ふざんけんじゃねーよ!こちとら色々準備してワクワクして待っていたのに、だーれも来やしねぇ!ボケが!」と今まで快活明朗な老人が罵倒し始めて俺達はポカーンとした。「ごほん!済まなかったね!今のは忘れてくれw」と普段の白瀬清蔵に戻り、「旦那様の恥部を知った下郎共を始末なさいますか?」と樹(いつき)は冷酷な目でこちらを見ながら主の許可を待った。東(あずま)の顔は恐怖に歪み、美月は戦闘態勢になり、俺も身構える。「別にいいよw問題ないよ、寧ろ楽になった」と白瀬清蔵が不許可をして事なきを得えて、俺達はその場でへたり込んだ。

 

 白瀬清蔵が俺達の無様な様子を見て大笑いし「さあ!諸君!管理棟に酒と御馳走を用意しているぞ!祝杯を上げようじゃないか!遥か昔に始まったオリエンテーションがようやく終わったのだ!私も今日は飲むぞ!」とフィナーレを宣言した。それから、俺達は管理棟でどんちゃん騒ぎをして、その日は管理棟の客室に泊まった。翌日、美月は憧れのホテルに泊まった事を、自慢するとはしゃぎ、東(あずま)は記録した客室の画像をスマホでニヤニヤ見ていた。俺達は白瀬清蔵にお礼を言うと、山道を降りて紙結山(かみゆいさん)の登山入り口に着く。「俺達やったな・・」と東(あずま)が感慨深い表情をしながら言う。「ああ、本当にやったんだな・・」と俺も東(あずま)の言葉に続く。そして、束の間の沈黙・・風で揺れる木々の音を俺達は聞いて、東(あずま)が口火を切り「じゃあ!二人共、気を付けて帰れよ!」と言い「お前もな!」と俺が返すと東は三輪バイクにエンジンを掛けて去った。「俺達も帰ろうか?」と俺が美月に促す。彼女は「うん!」と笑顔で一言だけ言い、惚れた女の笑顔に、俺は微笑んだ。

 

 俺達の見つけた、どんぐりコインは、あまりの量だったので、白瀬清蔵がその場で引き取り、後日、それぞれの通帳に振り込んでくれた。通帳には億単位の数字が刻まれて、そのお金を担保に俺達は人生の再出発をする。東(あずま)は高級バイクを買って、勝負できる場所を探す旅に出て行った。時々滞在先から絵葉書が送られて来たり、スマホに連絡が来るが俺は少し寂しい・・俺と美月は今まで住んでいたマンションを引き払い、ちょっぴりグレードが高いマンションに引っ越して同棲を続ていて、美月の方は、今でも看護師として相変わらず忙しい毎日を過ごしているが、以前より笑顔を見せる様になった。俺はというと、あれからハローワークを行ったりして就職活動に勤しんでいると、白瀬家の運転手の空き出ていて、思い切ってそこに面接を請けに行たら、あっさりと内定し、今では白瀬家のお抱え運転手をしている。実はその内定から今に至るまで数々の恐ろしいトラブルに巻き込まれたのだが・・それはまたの機会で!

 

 

 今回ご紹介るう曲は赤乃わいさんが、作詞作曲、動画をお一人でやられた、ホシハラです。

 

 本曲は、高根の花の想い人に少しでも近づきたい想いを実現するために、現実の厳しさと戦う恋の歌を初音ミクさんが歌います。

 

 本曲の題名ホシハラは、飽くまでも曲を聴いて感じた個人的な考察ですが、星が咲く草原に起きる愛と希望の物語を予感させる題名だと自分は思いましたよ。

 

 

 

 

 

 最近の技巧に凝った曲が全盛の今に、シンプルでポップな曲とキュートな歌詞が初音ミクさんにピッタリだと思いましたよ。これらも励んで頂きたいですね!

 

 本曲、ホシハラはシンプルな曲故に歌詞が聴き手の心に沁みこんで行くような感じがして、曲の物語の没頭できる素晴らしい曲だと思いますので是非!本動画を視聴して聴いてみて下さい!

 



 

お借りしたMMD 

Tda様より

Tda初音ミクV4XVer1.00

 

ニコニコ大百科様より

初音ミク

 

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